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CLAPF小さな幸せ
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バイトを終えて店員用のドアから外に出るといやにやさしい表情で出迎えてくれるあいつ…。

「お疲れさま」

「…おう」

いくら言ったって待つことをやめない碓氷にもう『先に帰れ』とは言わない。
無駄なのもそうだが、ほんの一瞬だけ、寂しそうな笑みを浮かべるからだ。
…おそらく自分でも気づいてない。

「待っててくれるのは…その、ありがたいんだがもう少し厚着してくれないか?」

もとからどちらかと言えば白い碓氷の頬が寒さで紅潮している。
触れてはいないが今の彼はひどく冷たくなっているだろう。

「…ん、今度からそうするね」

ほんの少し驚いたような顔をして碓氷は笑みを刻み、答えた。

「とりあえずこれ使え」

「なに?」

美咲がポケットから取り出したのは四角く白い、小さな物体。

「カイロだよ、ポケットタイプの。少しは暖かいだろ?」

「…ありがと。でもいーや」

「なっ、人がせっかく…!?」

文句を言おうとするがその前に美咲の手を少し強く碓氷がひいた。

「こっちのほうが好き」

碓氷のコートの中に閉じ込められて、押し当てられた胸の心音が耳の側でやたら大きく鳴る。

コートの外側から碓氷が大事そうに美咲を抱きしめて、さらりと彼女のストレートの髪を撫でる。

「あったかい…」

…美咲は恥ずかしさから反射的に逃げようとしたが、止めた。
その代わりに、コートの中で真っ赤になりながら碓氷の背中に手を回してきゅっと抱きしめた。

「…美咲、あったかいね」

「お前が冷た過ぎるだけだろ、こんなに冷えきってる。風邪ひいたらどうするんだよ」

「大丈夫。美咲にはうつさないようにするから」

「…そうじゃないだろ?」

「え?」

「うつすとかそうじゃないとかじゃなくて、風邪ひいてまで待ってて欲しくない。…もっと自分の体、大事にしてくれないか?」

コートの間から出していた美咲の頭が揺れて碓氷を目一杯仰ぐ。
その表情は心配とほんの少し、悲しみが混ざっているようだった。

「…うん、わかった。じゃあ美咲も約束してね?」

「何をだ?」

「無理して徹夜したり、働きすぎて体壊すようなことしないで」

「…ど、努力する」

「…美咲」

「いや、約束したいのはヤマヤマなんだが…私の性格知ってるだろ?」

「ぷっ、なんだ自分でわかってたの」

「ムカつくな。お前」

「わかった。じゃあいいよ、それで」

ぽんぽんとふてくされ始めて碓氷の胸に隠れた美咲を撫でていなす。

…こうして見ると碓氷と私はずいぶん背丈が違うのだと感じる。

「お前、でかいな…」

「…いきなり何の話さ」

「いや、こうして見ると完全に私が碓氷に埋もれてるから」

「まぁ俺は男の子だからね」

笑って答えた碓氷だが、美咲は生真面目にぽつりとそれに突っ込む。

「…んな可愛い響きじゃないだろ、お前」

「ひどーい」

一瞬遅れて美咲も碓氷につられ、笑い出した。
そうして温まるお互いの体は同じ温度になってゆく。
その感覚に2人が小さな幸せを感じていた。
抱きしめあったままの碓氷と美咲はそのまましばらく笑いあっていたのだった…。


―そんなことがあってからは美咲を待つ碓氷は寒さに合わせてきちんとあたたかい格好をしてくるようになりました。

でも、彼女が無理をしたときは無言で、見るからに寒そうな格好をして待っているようです。

無理をする美咲を見ていたくないのは碓氷も一緒ですからね。

END
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