1/1ページ目 「やっと涼しくなったね」 「そうだな…」 「なーに?どうしたの?美咲ちゃん」 「いや…毎日悪いなと思って…」 今は7時を回ったところ。生徒会の仕事を終えて帰るといつもだいたいこれくらいの時間である。 だが、それはあくまで生徒会だけの時、バイトを終えて帰るともっと遅くなる。 …それでもいつも碓氷は美咲を家まで送り届けてから帰る。 恋人になってからは尚更…。 「悪くなんてないよ?俺が心配だから美咲のこと送ってるんだもん」 …思わず足を止めてしまった。 それに合わせて碓氷も立ち止まる。 「…でも、帰り道全然違うだろ…。時間早いし、そんなに心配しなくても…」 「…心配だけじゃないよ」 「え?」 ふっと視線をあげると碓氷が真剣な顔でこちらを見つめていた。 「心配なのもそうだけど、そろそろ本当の意味気づいてくれない?」 視線がぶつかって引き込まれそうになりながら、その意味を考える…。 「…一緒にいたいって思ってるのは俺だけ?」 はっとした…そんなわけがない…。 そんなこともわからない自分が情けない…。 ふるふると首をふって否定する私に碓氷は顔を綻ばせる。 「ならよかった…、行こう?」 「あぁ…」 再び歩き出して今度は手を繋ぐ…一歩、また一歩家までの距離が縮んでいく。 それがどうしようもなく切なくて、美咲の心をしめつけている。 ―こんなに私が寂しがりだなんて思わなかったな。 そう思いながらもわざと歩調を遅くして、帰る時間を伸ばしている自分がいる。 いっそのこと帰りたくないと言えたのならどんなに楽だろう…。 でも、そんなこと言えない。言いたくない。 だって、それはただのわがままでしかないから…。 心なしか握っていた手に力が籠った。 「美咲ちゃん?」 「あ、悪い…なんだ?」 「…ううん、なんでもない」 「そうか?何かあるなら言ってくれよ?」 「じゃあ言うけど…、もしかして美咲、帰りたくない?」 「っ!?」 「…そっか」 真っ赤になって黙ってしまったために、わがままが碓氷にバレてしまった…。 「美咲、こっち…」 そういって連れていかれたのは誰もいない公園の大きな花壇にたくさん植えられた背の高いひまわりの影…。 「碓氷…何でこんなとこに…」 「ここなら目につかないでしょ?」 次の瞬間にはその大きな胸の中に閉じ込められ、きゅっと抱きしめられていた。 「少しだけ…こうしてていい?」 拒めなかった…、その必要もなかった…。 ただ一緒にいたい、だから私は答える代わりに「暑い…」と文句を言いつつも碓氷の背中に手を回して抱きしめ返したのだ。 人の気配がその間に何度かしたが、そんなのはどうでも良かった。 しばらく抱きしめ合ってから、ただ一つ…重ねるだけの口づけを交わして、その胸から離れて強制的にそのわがままを終わらせる…。 もうこれ以上甘えていたら本当に帰れなくなるから…。 それを碓氷もわかっているのだろう、少し残念そうに離れて手を繋いできた。 「碓氷…、ありがとな」 「どういたしまして、美咲」 歩調は先ほど同様に遅いもの…。 でも少し違ったのは胸に締め付けていた切なさがなくなったいたこと。 また明日もこうして同じ道をたどる。 それが嬉しいと感じているうちに家に着いた。 「また明日ね、美咲」 「あぁ、ありがとう。じゃあな」 「…俺がいないからって泣いちゃダメだよ?」 おどけながら髪をくしゃりと撫でられてむっとしつつ「誰が泣くか!!」とひらひら手を振る碓氷に叫んで、バタンと扉を閉める。 ダスダスとリビングに向かうとすでに母さんが帰ってきていた。 「おかえり、美咲」 「ただいまっ」 まだ少しむっとしながらイスにどかっと座る。 「…やさしいわね」 ニコッと笑いかけられて詰まった。 碓氷に送ってもらったこと、見抜かれてる…。 「…うん」 …碓氷がやさしいのは本当だ。 ムカつくところも多いけど、でも…大事にされてると思う。 「よかったわね、美咲」 またうん、と一つ頷いた。 ―本人には簡単に言ってやらないけど…、 碓氷と付き合えてよかった。 これからもそうだといいな…。 そう思えたある夏の日の夜のお話。 END <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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