1/1ページ目 むわっとした空気が生徒会室に立ち込めている。 そんな中、明らかに不機嫌な表情を浮かべて必死に責務を全うしている美咲。 額には汗を浮かべている。 「暑い…」 遂に口に出た一言。 だが、学費が安い代わりにクーラーなどというものは一部の場所を除いて星華には存在しない…。 言ったところで変わりもしない。 だからこそ美咲は今まで口にしなかったのだ。 今日はバイトがない。だから少しでも溜まった仕事を消化して各役員に回さねばならないのに、この鬱陶しい熱気。 外は朝からしとしとと降り止みそうにない雨で暗く、気分まで連動するように暗くなる…。 女子生徒は髪が広がると嘆いて懸命に工夫を凝らしていたりしていたっけ。 「…はぁ」 仕事に集中していたが、それも限界だった。 窓を開けて少しでもマシな空気を入れようとしたが…失敗だ。 即座に閉めた。 外の方が生ぬるくて気持ち悪い。 その時、首にやたらひんやりとしたものが触れた。 「ぎゃっ!?」 「ぶっ…会長、すっごい声」 振り向くと、口元を押さえて笑いをこらえている碓氷がいた。 「う、碓氷…!!何すんだよ!」 「ここ暑くて捗らないかなぁって思ってさ。はい、差し入れ」 先ほど首に触れたものの正体は碓氷からの差し入れのお茶の缶だった。 「…悪いな」 彼の手にある缶をみて自分の喉が渇いていたことに気付き、素直に受けとる。 一口含むと冷たさが心地よい。 「いえいえ、少しはイライラも治まるでしょ」 「イライラ何かしてないっ!」 「うそー、すっごく深いシワ眉間に刻んどいて?」 眉間を人差し指でつつかれて言葉がつまる。 「うっ」 「彼女が眉間にシワ刻むなら消してあげるのは俺の役目だもんね」 うりうりと揉みほぐされ、何だか気恥ずかしくなる。 「なんだよ、それ…」 「言葉の通り、あとこれもあげよっか?」 「何だ?それ」 彼の手のひらから出てきたのは小さな袋状のもの。 「保冷剤、あっついのキライだからさっきコンビニで買ったの。結構冷たくて気持ちいいよ」 ぺたっと碓氷の手のひらに包まれるように保冷剤が美咲の頬にあてられる。 「んっ」 「…美咲ちゃん、今の声やらしい」 「はっ!?」 ぽんっと手のひらにのせられた冷たい塊。 「仕事、頑張ってね。俺、教室にいるから終わったら来て?」 さっき美咲が口をつけた缶をとってひとつ喉を揺らし小さく笑う碓氷。 「お、おう…」 ひらひらと手をふって扉に手をかけた彼に美咲は思い出したように呼びかける。 「う、碓氷っ!」 「んー?」 「あ、ありがとな」 頬を染めた美咲をみて満足気に笑みを溢し、碓氷は足を進める。 「どういたしまして、あとでね」 パタンと閉められる扉を見つめて、大きくノビをする。 「よしっ!頑張るか」 もらったお茶を一口飲み、保冷剤を当てて再び仕事に没入する。 ほんの少し休憩しただけで驚くほど仕事が捗った美咲はその日いつも以上の成果をあげ、とても満足だったらしい。 おまけ あまりに美咲が没入し過ぎたため碓氷が迎えにきた頃には外はすっかり雨もあがった代わりにとっぷりと暗くなっていた。 せっかくバイトがなかったのに仕事のし過ぎで美咲ちゃんが構ってくれない、などとふて腐れてしまう碓氷。 そんな彼を宥めるのに一段と美咲は帰りが遅くなってしまうのだった…。 その日はふて腐れつつも、ほんの少しの休憩で気分が紛れるならとそれからも頻繁に1人黙々と仕事をこなす愛しい彼女のため、差し入れをするようになる碓氷の姿が生徒会室にあったらしい…。 END <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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