1/1ページ目 先程からぶつぶつと呪文の如く世界史の単語と地理名が目の前の彼女から発せられている。 「…美咲ちゃん」 ムダだとしりつつも呼びかけてみる。 「第二次世界大戦後、ドイツの分割統治をした国は…」 …無視。 「おーい」 「資本主義国家だと…、イギリスがニーダーザクセンとブレーメン、ハンブルクにシュレスヴィヒホルシュタイン…」 …完全にスルー。 「美咲ー?」 「…アメリカがバイエルンとバーデンヴュルテンベルク、ヘッセン。フランスがラインラントファルツ、ザーラント、ノルトラインヴェストファーレン…」 「うりゃ」 あまりの無視っぷりに面白くなさを感じ、いたずら心で彼女の脇をつついた。 「ぎゃ!!」 彼女がつついた脇とは反対の方に飛んだ。 ホント面白いほどの反応。 やっぱり飽きられそうにないな…。 「なっ、なんだよ!?」 「なんだよ、じゃないでしょ〜?さっきから呼んでるのに」 「そうか、悪かったな…。で、なんだ?」 「何でそんな呪文の如くドイツの地名唱えてるの?」 「お前、小テスト!」 かっと烈火が見えたのは気のせいではない…。 「そんなのあったっけ?」 「明日だっての!」 「そうなんだ〜。…じゃあさ、ご褒美かけて問題出しあいっこの勝負しない?」 俺の目的はもちろんご褒美。 しかし、ただじゃ美咲はのってこない。 だから、含めたエサの一言…。 「はっ!?…まぁいい。受けて立つ!」 思惑通り、勝負と言う言葉で完全にかかったようだ。 「んじゃ、ご褒美は勝った方が負けた方にね?」 「おう、形式は?」 「そうだね、書きにしよ。個々に時間計測。資本主義国家4つの分割統治をランダムで出題ね?例えばイギリスならニーダーザクセンとブレーメン、ハンブルクにシュレスヴィヒホルシュタインでしょ?それを書くのにかかった時間が短かったほうが勝ち。どう?」 「よし!それで構わん、先攻は…?」 「じゃあ先に美咲ちゃんが書きね」 「おう」 「じゃあ…」 スタート!! 「……」 「はい、俺の勝ち〜」 「なっ、なんで覚えてるんだ!?」 ソファーに座って項垂れていた美咲がばっと顔を上げた。 「あんだけ唱えてるの聞いてれば嫌でも覚えたよ」 「はい、じゃあ約束。ご褒美ね」 「うっ…、なんだよ…」 「じゃあ美咲にしてもらいたいことは…」 『唇にキス』 「なっ!?」 「こうでもしないと美咲ちゃんからキスしてもらえないんだもん」 彼女の側に座り、顔をずいっと近づける。 「わ、近っ」 「近づかなきゃキスできないじゃん」 「っ…目、瞑っててくれ」 「いいよ」 目を閉じていると彼女の香りがゆっくりと近づいてきた。 唇に遠慮がちに触れた彼女はすぐさま離れてしまった。 目を開けると彼女は真っ赤になってそっぽを向いていた。 「美咲ちゃーん」 「…しただろ」 真っ赤な彼女が目線だけこちらに向けていい放った。 「足んないなぁ」 「その手にはのらん」 「そう…じゃあ」 くいっと彼女の顎をとらえて押しつけるようにくちづけた。 「…!?」 「せめてこれくらいやってよ」 触れた彼女の唇をすっと撫でて笑うとすぐさま拳が飛んできた。 「このあほ!!」 「こらこら、殴りかかったりしちゃだーめ」 いつもの如くその手をとり、もう片手で彼女の腰をさらう。 「なんだよ!!」 「勉強するならここおいでよ」 「はっ!?」 「美咲ちゃん勉強してる間俺暇なんだもん、俺の膝の上に座って?」 「い、嫌だ!そんなこと!」 「んじゃご褒美ってことで、これ以上要求しないから」 するといささかの躊躇いのあと、そろそろと教材を片手に持って俺の膝に手を置いた。 「いいこ」 腰のあたりを両手で抱えぐいっと持ち上げて横抱くように座らせる。その拍子に彼女の片手が腕を掴んできた。 恥ずかしいのか教材で赤くなった顔を隠してしまった。 「隠さないの、いいから続きやんなよ」 「このバカ…!!」 一言短く文句を言って再び呪文の如く用語を唱え始めた。 …真っ赤のまま。 そのうちにうとうとして彼女は眠ってしまった。 きっと疲れていたのだろう…。 その安心しきった寝顔見た俺の頬は緩んでいた。 先程の手が俺の腕をきゅっと掴んだままだったから…。 それがただただ嬉しくて、彼女の眠りの邪魔にならないようにそっと抱きしめた。 END <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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