NOVEL
心配とちょっとしたお返し
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休み時間、廊下を用もなく歩いていると彼女の姿が目に入った。
しかしなんだか様子がおかしい…、ふらふらしている気がする。
急いで駆け寄ってみると、横に並ぶあと少しのところで彼女の体が崩れ落ちた。

「鮎沢!?」
間一髪で抱き止めたが意識はなく、顔色も悪い…。
俺は急いで真っ青な彼女を抱え保健室へとつれていく。


保険医に事情を説明し、とりあえず氷とタオルを用意してもらう。

「鮎沢さんをそっちのベッドに寝かせてあげて。多分過労ね…」
---彼女頑張り屋さんだからね、と続けた保険医は手近な机に氷枕とタオルを数枚置いて部屋を出ていってしまった。
俺は苦笑しつつ鮎沢をベッドに寝かせ、カーテンが閉める。


(全く、何でこんなになるまで休まないんだろ…)
理由なんかわかりきっているがそう思わずにはいられない。

タオルを巻いた氷枕を美咲の後頭部にあてがい、額の髪をはらってやると彼女がうっすらと目を開けた。

「美咲?」

「あれ、碓氷?なんでお前が…。ここは?」
ぼぅっとしながら上半身を起こして辺りを見回すが、意識が朦朧として状況が把握しきれてないらしい。

「ここは保健室だよ。美咲はさっき廊下で倒れたの、過労だってさ」


「えっ?そうなのか?」
少し驚いたようだが、ぼぅっとしているのは変わらない。

「うん、どっか痛くない?」

「ちょっと頭痛い…」

「また、無理したね?」
美咲を横にしながら尋ねる。

「…ごめん」
掛布を顔の半分まで引き上げて申し訳なさそうに謝る。

「どれくらい寝てないの?」
少し腫れぼったい目蓋が全然寝てないことを物語る。

「…3日」

「倒れても仕方ないよね、それじゃ」
少し険のある声で言ってみる。

「やんなきゃならないこと溜まっててな…」

「いくら体力あるからってそんな無茶したら体壊すに決まってるでしょ?前にも言ったよね、美咲も女の子なんだよ?」
畳かけてみると彼女は申し訳なさそうな顔をして布団の端をきゅっと握った。

「うん、…ごめん」
謝る彼女の髪を撫でてあげると少し安心したのか布団を握っていた手の力を緩めた。

「もういいよ」
釘をさしたからしばらくは無理しないはずだ。


「ちょっと寝てから帰ろう?送ってくから」
微笑んで美咲の手を握ってすぐ側の椅子に座る。

「あぁ」
余程疲れていたのか彼女はすぐに眠りについた。

俺はというと、…いつの間にか彼女の手を握ったままベッドに突っ伏して一緒に寝ていた。


*******
数時間後、

先に起きたのは俺の方で彼女はまだ静かに眠っている。

その姿が愛しくて、つい襲ってしまいたい衝動に駆り立てられるが、そこは無論自制する。その代わりに彼女の頬をゆっくりと撫でる。
(…これくらいなら許してもらえるよね)

すると美咲が目を覚ました。

「おはよう、美咲」

「あぁ、おはよう」

「顔色少し良くなったね、もう頭痛くない?」

「おぅ、もう平気だぞ!」
そういえば…と彼女が言葉を続けた。

その言葉に俺は疑問符を浮かべる。
「どうしたの?」

「私は廊下で倒れたんだよな?」
怪訝な顔でこちらを見上げてくる。

「そうだよ?」

「どうやって保健室に…?」

「なんだ、それはね…」
美咲の耳元で囁くように言ってあげるとその言葉に彼女は凍りついた。

「今、なんて言った…!?」
耳にした言葉を理解できないようだ。
というより、理解したくないだけかも…。


心配かけたお返しにゆっくりともう一度言ってあげる。
「だぁから、お・ひ・め・さ・ま・だ・っ・こ、だよv」

「…冗談、だよな?」
彼女は信じないと言わんばかりに頭を抱えて項垂れている。

「まっさかぁ、事実だよv」

「ふっ、ふざけんなー!!!!」
美咲の見事な正拳突きをかわして、すかさずバランスを崩した彼女を抱き止める。

「おっと、こらこらっ、ダメだよ女の子が殴りかかったりしちゃ。まだ本調子じゃないんだしね」

「だったらお前はどうして本調子じゃない私に殴りかかられるようなことするんだよ!?」
真っ赤になって抗議してする彼女は余程恥ずかしいのか、言い終えた瞬間に再び頭を抱え、俺の腕の中でまるまってしまった。

…どうしてって、
「彼氏が倒れた彼女を保健室に連れて行って何か問題ある?」

「連れて行く方法に大いに問題があるだろ!」

「引きずって行けるわけないでしょ。おんぶでも良かったけど、気ぃ失ってる時って力抜けてるからかえって危ないんだよ?」

(…それに大してスカート短くしてなくても、中見えるし。)

「それなら引きずって行ってくれたほうが良かった!」

泣き事を漏らす彼女は可愛いのだが…
「それは無理だね、どうしてもお姫様抱っこされたくないなら今後ムチャしなきゃいいよ。でも…」

2人っきりの時は別だけどね?
腕の中で未だにまるまっている美咲の耳に吹き込むように言った。


「…っ!」
まさにゆでダコとはこういう事を言うのだろう。真っ赤な顔をした彼女が顔をあげた。


「碓氷のアホ!変態宇宙人!」

「はいはい、それだけ騒げるなら行こっか?」

「どこにだよ!?」

「美咲ちゃん送っていくって言ったでしょ?あれ、もしかして期待した?」

「んなわけあるか!!」
怒る美咲がベッドから立ち上がるのを支えてやる、そして…

「しょうがないなぁ…、今日は倒れちゃったばかりだから、これで我慢してね?」

「は!?んっ!」
彼女の顔を素早く上に向かせて唇をとらえる。驚いて体を引こうとしても俺はそれを許さず、腰に手を回して逃がさない。重ねただけのキスからどんどん深く舌を侵入させて彼女の力を奪う。

美咲は観念したのか両手を俺の頬に添えた。そのうちの片手を取り、指を絡めて握りしめる。
目を閉じていた彼女はそろそろ酸欠になりかけているのか、口の端から喘ぎ声を漏らしつつ、少し眉間に皺を寄せていた。

(…倒れて寝てたんだからこの辺にしとこっか。)

俺の中の理性がそう告げた。名残惜しいがあまりにやり過ぎるとマズイ…。


唇を離すと彼女はふらっと俺の胸にもたれかかって乱れた息で呼吸している。

「…大丈夫?美咲ちゃん?」

「はっ、あぁ…ちょっと苦しい」

その体をやさしく抱きしめて背中をさすって乱れた息を落ち着かせてあげた。
しばらくするとだいぶ息が整ってきたようだ。

「もう、大丈夫だ…」
胸元でぽつりと言う。

「そっか、じゃあ行く?」
「おぅ…」
少し寂しげな声をした美咲をぎゅっと抱きしめて告げる。

「ホントは美咲のこと離したくないんだからね?でも、今日はここまで…。明日は学校休みだから俺の部屋に来て?でも…」

強制はしないよ…?

美咲は俺の背中に手を回してひとつだけうなずいた。答えはその動作で俺には十分伝わる。

「いいこだね、美咲」


保健室をあとにし、下校する。

帰り道、手を繋いだまま歩く俺たちは温かな夕陽に照らされてとても幸せだった。








おまけ

たくさん眠ったお陰で、すっかり元気になった美咲が翌日、真っ赤な顔をして碓氷の部屋を訪れましたとさ。


END
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