NOVEL
小さな桜
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今は放課後になったばかり…。


俺はいつもどおり生徒会室へ行く途中に目的の鮎沢を見つけた。

…なぜか中庭の隅っこでしゃがんでいる。

気分でも悪いのかと思い、ちょっと小走り気味に側へと寄った。

「会長?どうかしたの?」

すると鮎沢は顔だけ俺の方へ向けた。

…どうやら気分が悪いわけではなさそうだ。
そのことにまずホッとする。

「碓氷か、これを見てたんだよ」

足元に小さな蕾をいくつかつけた丈の低い桜の木。

「ちっちゃいね、こんなのあったんだ?」
言いながら俺も隣にしゃがむ。

「あぁ、さっき通りかかった時に見つけてな。なんか可愛かったから…」
視線を蕾に戻した彼女は微笑みながらその細い人差し指で少しだけそれに触れた。

その姿を見ているだけで自然と俺も笑みが浮かぶ。

「そっか、でもまだ冷えるのにこんなとこでしゃがみこんでたら風邪ひいちゃうよ?」

「だいぶ春っぽい温度だし大丈夫だ…くしゅッ」
鮎沢のくしゃみに俺はほんの少し眉を寄せる。

「ほらね?もう戻ろう」

「ん〜、もうちょっと見てたい…」

「美咲ちゃん、ちょっとこっち向いて」

「ん?なんだ?」

振り向いた彼女の額に自分の額をつける。

「ちょっ!おい、何してんだよ!?」
すぐさま離れて真っ赤になりながら抗議の声をあげる彼女。

「何って熱はかっただけだよ?」
とりあえず熱はなかったけどね。

「アホ碓氷!そんなこと聞いてるんじゃない!」

「わぁ、美咲ちゃん真っ赤〜」
からかうように笑うと睨まれた。

「ちょっと風邪気味でしょ?熱でたら大変だし、また見たらいいじゃない」

「…」
少しだけ残念そうな、拗ねたような顔をしている。

「どうしたの?」
いつもならこういう時、鮎沢は引き下がる。だが珍しく引き下がらないので疑問を持った。

「…見たいんだ。花が咲くところ」

なるほど、あとちょっとで咲きそうな蕾がひとつあるからね。

…また不意討ちで彼女の可愛いところに惹かれた。でもそれに喜んでいる自分がいる。

かなわないな…。
ため息をついて鮎沢に微笑んで言った。
「まだ咲かないよ、多分明日の朝くらいに咲くんじゃないかな?」

「何でそんなことがわかるんだ?」
怪訝そうな顔で俺の顔を見ている。

「だって俺、ご主人様だもんv」

「あぁ、宇宙人だからか」
軽くかわされて呆れたように呟く。

「美咲ちゃんひどい〜、せっかく教えてあげたのに」
ちょっと口を尖らせて言ってみる。

「そうだな、それに関しては礼をいう。ありがとな」

「どういたしまして」

「明日は早く起きるかな」ん〜、っと立ち上がって伸びている。

「ねぇ美咲ちゃん、明日一緒に登校しよ?」

「は?なんでだよ」


「だって俺も咲くとこみたい…」
もちろん一緒に居たい口実だが、彼女はその手の勘はとてつもなく鈍い。

さらに彼女の弱いちょっと悲しげな顔をしてうつむいてみると案の定うっ、と詰まった。

「だめ?」
しばらくすると彼女は諦めたようにため息をついて少し頬を染めながらそっぽを向いて言った。

「ったく、わかったよ…」

「ホント?」

「嘘でいいのか?」

「まさか、6時に鮎沢の家に行くよ」

「ん、わかった」

「じゃ、生徒会室行こ」

「今日はもう帰るよ、仕事は片付けたしバイトもないからな」

「そっか、じゃあ一緒に帰ろ」

「理由がないだろ」
迷惑そうな顔で拒否されるが…、


「んじゃ花の咲く時間帯教えてあげたお礼ってのはどう?」
にっこり笑うとしょうがないな、と彼女は承諾した。

*********
翌朝


彼女の家について待っているとすぐに玄関の扉が開いた。
「おはよ、会長ッ」

「ん、おはよ」
足早に歩きだした彼女を追いかけて俺も歩きだす。

「そういえばお前、低血圧じゃなかったのか?」

「そうだよ、寝起きは頭ぼーっとすんの」
今も実は結構眠い…。

「それって体質なのか?」

「体質だよね、多分」

そんな他愛のない会話が出来るのが嬉しい…。
そうしているうちに残念ながら学校についてしまった。

中庭に出てみるとちょうど花が綻びはじめていたところのようだ。

「わっ、咲いてる!」

「本当だ」

「綺麗だな…」

「そういえば美咲ちゃん、桜の花言葉って知ってる?」

「いや、知らないな。なんて言うんだ?」

「『優美な女性』だよ」

「へぇ、そうなのか?」

「美咲ちゃんとちょっと似てるね」

「は?」
私ほどそれに似合わない可愛げのない女もいないだろ、と続ける彼女に心底呆れてしまった。

「本当に無自覚なんだね…」

似合わないどころか可愛い過ぎて襲ってしまいたくなる衝動に俺が幾度となく駆られていることなど美咲は知る由もない。

…こうも無防備だとまた、他の男に言い寄られかねないよね。

そんなの面白くない俺はちょっと注意を促すがてら彼女のこめかみにキスした。

「な゙ッ、何すんだよ!?」

「あんまり無防備だからキスしちゃった」

「この変態宇宙人が!」
殴りかかられたがいつも通りかわして言う。

「だって、美咲ちゃん可愛いのに自覚ないからじゃん」

「だからってなんでキスすんだよ!」
彼女は真っ赤になって怒っている。

「あぁ、こめかみじゃ足んなかった?それじゃあ今度は唇ッ「ふざけるな!」」
言葉は封じられたが注意は喚起できたようなのでよしとしよう!



こんなにも可愛い君を俺以外の奴に見せたくはないからね。




…そんな2人のじゃれあう姿を小さな桜の花は風に揺らながら微笑んで見届けていた。


END
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