NOVEL
びっくりしたけど…
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とんとんと階段を1人降りてく女子生徒がいた。

やわらかそうな髪をふたつに束ね、その表情は嬉しげだった。
また、その様子と同様にその足取りも軽かった。


「さくらさん、ありましたか?忘れ物」

花園さくらが靴箱のところにいくと親友のしず子が待っていたらしく、声をかけた。

「うん、あった。ごめんね?待たせて…みんな帰ったんだ」

辺りをキョロキョロとその大きな瞳で見回し、しず子に尋ねる。

「ええ。すぐ追いつくでしょうし、先に歩いててもらいました」

「そっか、じゃあ帰ろ」

「ええ」


コツコツと歩いて行く間にさくらは先ほどのことを思い出していた。


*********
今日の部活は比較的早く終わったので同期の1人が提案した。


「…ねー、この時間なら屋上で夕日見れるかもよ?」
窓の外をさしてふと呟いたその提案に皆食いついたのは言うまでもない。

「外晴れてるし、いい感じだね。行ってみようか!?」
「うん、しず子も行こうよ!!」

「ええ、行きましょうか」
残っていた彼女達4人は皆その提案の元、帰り支度を整えて屋上へと向かった。

行く道で生徒会室の前を通ったが、その中にさくらのもう1人の親友、鮎沢美咲の姿はなかった。


「美咲、いないね」

さくらがぽつりと呟くと1人が空の教室を歩きながら覗いて言った。

「きっと見回りの時間なんだよ」

「そうですね、多分それくらいの時間ですよ」

時計を見てからそう告げたしず子がさくらを見る。

「そっか。もうそんな時間か」

そして、とんとんと屋上に近づく階段を登り、ドアを開く。

「わぁー!」

そこはオレンジ色の光が惜しみなく降り注ぐ場所だった。

「きれいだね!」

「うん!」

「街が光に照らされて輝いて見えますね」

「ホント!来て良かった〜」

口々にその夕日の感想を述べて、4人は階段に通じるところの横で話をし始めた。


しばらくするときぃっとドアが開き、誰かが屋上に現れたのが気配で知れた。
しかし、4人はそのまま会話を続行していた。
それから程なくして再び誰かが屋上へとあがってきた。

もしや告白かと4人はバツの悪そうな表情を浮かべ、顔を見合せて屋上を見渡した。

「鮎沢…」

鮮明に聞こえた男の声。
その声は先ほど姿を見せなかったさくらのもう1人の親友の名を甘く呼んだ。

その声色からどういう状況か勘のよい彼女達は容易に伺い知ることができた。


「…なんだよ、変態宇宙人」

「顔赤くして睨み付けても怖くないよ?むしろ逆効果なの。知ってた?」

「うるさいっ…ちょっと近いぞ」

「いいじゃん、どうせ誰もいないんだから」

逢瀬の様子が筒抜けで、はからずも盗み聞きしている現状。
良くないことともちろん感じていた4人は気づかれないようにゆっくりゆっくりと屋上から抜け出した。

**********
「び、びっくりした…」

階段を降りたところで1人が口を開いた。

「美咲ちゃんって碓氷くんと付き合ってたんだね」

「う、うん。あれはそうだよね…」

「それにしても碓氷くんあんな声だせるんだね…」

耳に残る“鮎沢”と呼んだ甘い響きに一同が赤面する。

「ダメだ、耳から離れない…」

「うん…」

「もう、帰ろう…か?」

夕日を見に行ったらとんでもないお土産をもらってしまった4人。


そしてさくらが忘れものしたことに気付き、別れたのだった…。


*********
「さくらさんどうかしましたか?嬉しそうですけど…」

はっとして緩む頬に手をやる。

「だって、美咲に恋人出来て嬉しいんだもん」

「私はあなたはてっきり寂しいと言うのかと思いましたよ」

「うん、寂しいよ。でも、頑張りすぎる美咲を止めて甘やかせるのってきっと碓氷くんだけだと思うから…」




びっくりしたけど…それ以上に私は美咲があの時、嬉しそうな声色を忍ばせて碓氷くんを呼んでたのがわかったから。


美咲がどうか碓氷と幸せになれますように。

っていうか幸せにしなきゃ碓氷くん許さないからっ!
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