NOVEL
葛藤と噂と激怒
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ある日の昼休み。
美咲がいつも通り昼御飯をさくらとしず子と一緒に食べていると恋愛の話になった。

「えっ、美咲彼氏いるの!?」

「あっ…あー、うん…。まぁ…な」

「初耳ですね」


つい口を滑らせてしまった美咲は少々苦い顔をしているが、お構い無しにさくらが話を切り込む。

「ねぇねぇ、美咲。彼氏って誰!?」

「えっ…と、その…秘密だ」

「えー!?気になるよ!ねっ、しず子も気になるよね?」

さくらがキラキラと目を輝かせてしず子に話をふる。

「そうですね、確かに気になりますね」

「しず子まで…、とりあえず…今は教えられないんだ。ごめんな」

「そっかぁ…。残念だけど話せるようになったら教えてね?」

「あぁ、話せるようになったら」

「…美咲さん、綺麗になりましたよね」

「は!?」

唐突に切り出された話題に美咲にはついていけず、唖然とした。
その間も2人は会話を続ける。

「うん、もとからきれいだったけど今はもっと綺麗になったよね。恋するとやっぱり変わるんだね」

「ちょっと…そんなことないからっ!!」

「照れなくてもいいのに〜」


とりあえずのところ、いまだ秘密にしている碓氷との関係は現状維持のよう。

―本当は親友には伝えておきたいんだがな…。

そんな歯痒い思いをしていた美咲が時計をみると、ここ最近日課になっていることの時間が近づいていた。

「あっ、美咲もうお昼休み終わり!?」

「いや、ちょっと用事があってな」

「そうなんですか…じゃあまた」

「美咲またね!」

「あぁ、じゃあな2人とも」


そうして2人のもとを美咲は去っていった。



********

コツッコツッと一段一段はやる気持ちを抑えるように美咲は半ばゆっくりとした速度で屋上に続く階段をのぼる。


「遅かったね、会長」

扉を開けるとフェンスにもたれていた碓氷が美咲に微笑みかけた。

「あぁ。悪いな」

「…うん。いーよ、ちゃんと来てくれたもんね」

「…」

「ねぇ、美咲?」

「…っ何だよ」

未だに慣れない呼ばれ方に美咲は自分の頬が朱に染まるのを感じた。
そして近づいてきた碓氷にそっと手を引かれて彼の隣に誘われる。


「どうして、俺との関係言っちゃわなかったの?」

「…お前、聞いてたのかよ」

「聞こえたの。ねぇなんで?」

「何でって…前にちゃんと言っただろ!?」

「うん。そーなんだけどさやっぱり、ね…。ごめん、忘れて」

「…別にお前の言いたいことがわからないわけじゃないんだけどな…」


本当は、さくらにもしず子にも碓氷と付き合っていると伝えたい。
だけど、付き合うということにも、碓氷と恋人同士になったということにも慣れなくてたびたび挙動不審な行動をとってしまっている。
そんな状況では、どうしても口にすることができないというのが大きな理由だ。
…だから、せめてあとほんの少しだけ素直に接することができるようになるまで、誰にも伝えないことにしたのだった。


碓氷にもそう伝えてある。

「わかってる。もういいよ?こっち来て」


碓氷も美咲の考えを尊重して、校舎内では今まで通りの関係を保っている。
…逢瀬の時間をもうけたことを除いて…。

「…ん」

隣にいた碓氷の腕の中にすっぽりと美咲は収まり、彼女もきゅっと彼の服を掴んだ

「美咲のこと逃がすつもりなんてないから、いいんだけどね…。やっぱり公然といちゃつきたいなって欲が出ちゃった」

「…知られても公然となんかイチャつかないぞ?」

「そりゃ残念、でも俺からイチャつきにいくから結局変わんないんじゃない?今だってこうしてるわけだし」

「…うるさい、変態宇宙人」

「はいはい、照れなくてもいいでしょ?」


そういう碓氷は柔らかい笑みを浮かべていてとても嬉しそうだった。
対して美咲はというとさきほど以上に真っ赤になりつつも満更でもない様子で碓氷にされるがままになっていた。

一方のさくらとしず子は、美咲と別れてそのまま昼食をとっていた。

「ねぇしず子〜、美咲の彼氏って誰かな?」

「さぁ。誰であっても美咲さんがちゃんと考えてお付き合いしてるならいいんじゃないですか?」

しず子はさらりとさくらの興味を流し、ペットボトルのお茶を飲みくだした。

「そうだね…。でもやっぱり気になる!!」

「…さくらさん、あなたって人は…」

呆れた口調でさくらを見てため息をつく。

「やっぱり深谷くんかな!?一途だし、幼なじみだし…意外とお似合いだと思うの!」

「声大きいですよ、もう少し抑えてください。それに邪推はやめておきましょう?美咲さんも今は言えないって言ってましたよね。そのうち話してくれるんじゃないですか?」

「…うん、そうだね…。ごめん、興奮しちゃった」

諭されて小さくなったさくらにしず子はふぅと言って微笑み立ち上がった。

「そろそろ戻りましょう?予鈴がなりますよ」

「…うん、そうだね!」

彼女たちが立ち去ったそのすぐそばに2人の男子生徒がひょっこりと出てきた。

「おい、聞いたかよ今の」

「あぁ…深谷と会長が付き合ってるかもってやつだろ」

「あの会長が男だってよ…」

「おもしれーじゃん、皆に回そうぜ」


そうして噂は翌日にはあっという間に生徒たちに伝播していたのだった…。
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