NOVEL
その言葉、頭から離れないのはなぜ…?
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ここは美咲の家。
そして今日何度めかの小さなため息が台所の片隅に佇む美咲から発せられた。

昼間聞いた碓氷と叶の会話…。
叶の言葉ははじめは良くは聞こえなかったけど碓氷の言葉ははっきり聞こえてしまった。


『ちゃんと1人の女性と付き合えばいいじゃないですか』

『本気になるのもめんどくさい…』

あいつが恋愛をするもしないも自由だ。
だが、なぜか私の頭の中ではあの碓氷の一言がぐるぐると回っていて離れてくれない…。

「はぁ…」

ついたため息が美咲の心を少しずつ暗くしていく。
そこにピーッと炊飯器が鳴り、ため息が掻き消えた。


「あー!!もうっあの変態なんか知らん!おにぎりだっ、おにぎり握るぞ!」



半ば碓氷の言葉を打ち払うような勢いで美咲はできたてのご飯をかき混ぜ、おにぎりを作成し始めた。
だが…失敗し、例のお粥同様彼女が絶望したのは言うまでもない。

「…しょうがない、米だともったいないから何か代わりので」


そうして湿らせたティッシュを米粒状に丸めて、ぐっぐっと握っていた…。
その感にも碓氷の言葉が頭の中でぐるぐると回っている。
しばらくして握り疲れたのか美咲は椅子に腰掛け、また小さくため息をついた。

「…碓氷のアホ」


ひとつ出た言葉を皮切りに再び美咲は一晩中、米に見立てたティッシュを握り続けるのだった…。



***********
翌日、土曜日


「…で…、できた…!」

炊いた米をおにぎりにし、並べたところで手伝いに来ていた叶がその場に似合わない丸いものを手にした。

「…何ですかこれ…?」

ひょいと持ち上げたのは美咲が作ったおにぎりである。
…おにぎりらしからぬ“ばりんぼりん”という音が食べるとするが…。


叶におにぎりだと説明した直後、掃除に飽きて腹を減らした運動部の面々が家庭科室に乱入し、除く差し入れをすべて食い荒らした。
但し、美咲の差し入れを除いて…。
彼女のおにぎりはというと、おにぎりとすら見なされずにぽいっと投げられる始末である。


その結果、運動部の面々は怒った美咲に掃除でこっぴどい目にあったという…。


***********


掃除を終えた美咲が家庭科室に戻ると、そこはきれいに片付けられていた。
ただひとつ、彼女のおにぎりを残して…。

「…あいつらも処理に困ったんだろうな…とりあえず持って帰ろ…」


袋に入れたところで美咲は食事をとっていないことに気付き、教室の端に座って例のおにぎりを食べ始める。

ばりん、ばりんっと明らかにおにぎりを咀嚼するには間違った音が室内に響く。

「うーん、我ながら酷い…徹夜して練習してこれか…。なぜか固めたモチの食感がするな」

彼女の一人言が続く…。

―…そりゃあ、こんなんじゃあいつだって嫌がって食ってくれないか…。


ひとつ食べ終わったところで美咲は静かに眠り始めた。


それから間もなくしてドアが開き、見慣れた男が近づいてきた。

彼は彼女の側にあった例の袋からおにぎりをひとつ取りだし、食べ始める。

直後、ばりんっという音が室内に響いて彼はぶっと小さく笑い出す。

「どうやったら、こんなふうに…」

―ほんと鮎沢には敵わないなぁ…。


そういった彼は微笑みを浮かべていた。
そして、彼女を一度だけ包むように触れて自分の肩に彼女をもたれさせた。

すやすやと眠る彼女の横でおにぎりをひとつ、またひとつ嬉しげに食べながら…。
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