NOVEL
くれないのなら…
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どうやら完璧に怒らせてしまったらしい…。


「うっ、碓氷〜」
反応なし。

「碓氷く〜ん」
完全に無視。

「拓海…さん?」
やっとこちらを向いた。

「…何?」
ただでさえ怒らせると機嫌をとるのが大変だというのに…今回は難易度が跳ね上がった気がする。


「ゴメン…怒らないで機嫌直してくれ」

「やだ。怒るし機嫌も直さない」
そう言ってまたぷいっとそっぽを向いてしまった。

「…だったら、どうしたらいいんだ?」

「知らない」

「だからゴメンって」


ここまで碓氷がへそを曲げてしまったのは今から少し前に遡る。




すでに役員はみんな帰った後の生徒会室で私はいつも通り仕事をしていた。


昼休み、男子生徒が校内を走り回って鬼ごっこを展開していたため、その対処(説教含)で私は食事をする事ができなかった。
まぁある意味好都合だったのだ、何せ今日の昼食は昨晩作ったお菓子の失敗作…友人にもあまり見られたくないものだ。

碓氷と付き合い始めてからというもの、特訓していろいろ作るようにしている。

前科のお粥に然り、おにぎりに然り、いつまで経ってもあの壊滅的な料理の腕前では情けない…。
克服しようと努力してはいるものの、おそらく現段階では人並み以下…。
昨夜作ったクッキーはマシでそれなりに食べられるものではあるが、碓氷の腕前には程遠い…。
作る度にあまりにレベルが違いすぎてへこむのだが、それでも最近は多少上手くなったと思っている。

お腹も空いていたので休憩がてらつまんでいたその時…

「あれ?美咲〜!」
生徒会室の前をさくらが通った。

「おっ、さくら。部活終わったのか?」

「うん、それ何?」

今は仕事をしていないし、誰もいなかったので入っていいよと招き入れる。

「あっ…、ちょっと失敗作の処理」

苦笑いを浮かべつつ、さくらに見せたのは少しこんがりしているクッキー。
なんだかほのかに苦い気がする…。

「失敗…?ちょっとちょうだい」

「いいけど…美味しくないぞ」
そう断ってまだ焼け過ぎなかったまともなクッキーを渡す。

「ありがとう…、全然失敗じゃないじゃん」

「いや、いいよ無理しないで…」

「えー、そんなことないよ!?」
むぐむぐと食べながら言ってくれるさくらの優しさにじーんとしていたその時、ものすごい速度で廊下を駆け抜け扉を開けた奴が1人。

「何の匂い!?」

「しっ、深谷!?」

「やっぱり食い物!!ちょうだい!!」

「あっ、ちょっと…おいこらっ深谷!!」

止める間もなく食べられてしまった…。


「…会長?」

深谷がむしゃむしゃとクッキーを食べ尽くした直後、現れたのは間の悪いことに碓氷だった…。


「…何やってるの?それ…」

「!?…そうだ!深谷くん帰ろっ、まだ美咲仕事あるからっ!ね!?」


何かがピンときたらしいさくらがぐいぐいと深谷を押し、帰らせる。
この状況ではかなりありがたい…。
それにしてもマズイ…。


「…俺の、あるよね?」
声が冷えている、マズイ…非常にマズイ…!!
なんとかはぐらかそうとあれこれ考えてみるが、悲しいことにそういった器用さは持ち合わせていない…。

「えーっと、そういうつもりじゃ…」

「じゃあ何で他のヤツにあげたの?」

「…あー、ちょっと味見」
…ホントは見せたくない昼ごはんだったのだが…。

「ふーん?俺には味見させてくれないのに?」

「おいしくないし…」

「…そうじゃないでしょ?」

「ご、ごめん…」

「……」

無言でそっぽを向いて椅子に座る碓氷…。
そしてこいつから発せられるのは明らかに怒った刺々しいもの。

そして現在に至る。


「なー、碓氷…怒るなよ」

「ヤだ、怒る」

「…今度はちゃんとやるから!!」

「それじゃ足んないもん」
ホントに厄介だ、機嫌の取り方がわからない…。
もうこのテしか思い付かない…!!

「じゃあお前の好きなもんもつけるから!!いい加減機嫌直してくれ」

「…ホント?」

ぴくっと反応してしばらく経ってからさっきよりマシになった声色で尋ねてくる。
よかった…。

「あぁ、ホントだ!」

「…わかった」

仕方ないという表情を浮かべながら、ふっと笑みを溢す碓氷…。

「…悪かったな。まさかそんなに怒ると思わなかったんだ」

これは本当だ、ここまでへそを曲げて怒るなんて正直想定外だった。
…もともと誰かにあげるつもりじゃなかったから想定も何もあったものではないのだが…。


「当たり前でしょ、美咲が作ったやつ俺だけ食べらんないなんて怒るよ」

「…断っとくけど、お前のと比べたら全然美味しくないぞ?」

「美咲が作ってくれたのなら食べたい」

…本当ならもっとまともになってから食べて欲しかったのだが、そうもいかないようだ。

「あぁ〜もうわかった、腹壊してもしらないからな!!」

一応忠告はした、それでも碓氷は食べると言う。

だったら、せめて今回よりも美味しいものを…とその日から急遽猛特訓を自宅で繰り広げた美咲だった…。
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