1/3ページ目 だが、会いたくても会えない。 今の彼女にそれを求めるのは酷だ。 本当なら逢って触れ合いたいし抱き合いたいのだが、生徒会で緊急の仕事が出来てしまったという。 何でも、やっと完成した重要な書類が教師の手違いで他の生徒に渡り、運悪く紛失してしまったとのことらしい。 結局、その書類は再作成せねばならず、今彼女を筆頭に生徒会の役員たちは鬼のようなスピードで締め切りに間に合わせようと奮闘しているのである。 俺からすれば彼女と過ごす時間がその間、完全に潰されてしまい苛立たしい限りなのだが、その不満を彼女にぶつけるのは間違っているし、ぶつけるつもりもない。 それに、今回ばかりは彼女の側にいるのは邪魔にしかならない。 …へたに側にいたところで時間を浪費させて、長引かせてしまうのがオチだ。 「…暇だな」 鮎沢に逢えないだけでこんなにも暇だ。しかもモヤモヤする…。 抱き合っているときは温かくて時間などあっという間だというのに…。 相当溺れてるなと自嘲の笑みが浮かぶ。 これじゃどっかの恋愛小説に出てくる乙女だ。…でも彼女に溺れてる感覚は悪くない。 「結局、それだけ惚れ込んでるってことか…」 やることもなく目を閉じると無造作に置かれた携帯が鳴った。 見なくても分かる…。 「もしもし」 『碓氷か?私だ』 「うん、どうしたの?」 『例のやつ…片付いたんだ』 「そっか、お疲れ様」 『あぁ、それでだな…』 「ん?」 『迷惑じゃなければ…その、これからお前の部屋、行ってもいいか?』 思いがけない申し出に笑みが浮かんだ。 「いいよ、おいで。待ってる…」 『…おう、じゃああとでな』 パタンと携帯を閉じて、キッチンへと向かう。 彼女の好きな紅茶を淹れて待つため…。 この行為も3週間ぶり。 でもまだモヤモヤする…。 この理由がわかるのはほんの少し先、彼女が俺の元にやってきてから…。 ******** 堪えきれず扉の外で壁にもたれながら鮎沢を待っていた。 下のインターホンが鳴ってから彼女の姿が見えるまでなんだかずいぶん長い気がする。 心待ちにしていた彼女との時間。 なのになぜかモヤモヤが取れない…。 「…碓氷?」 伏せていた目を開くと彼女の姿があった。 …やはり疲れている。 「いらっしゃい、美咲」 でも、休むことより俺と会うことを選んでくれて嬉しい…。 部屋の中に入って彼女を座らせる。 「はい、お茶どうぞ」 「あぁ、ありがとう…なんだか久しぶりだな。このお茶飲むの…」 「そうだね、美咲忙しかったから…お疲れ様」 「おう…でも、悪かったな」 「…あいつらのおかげだな、」 あぁそうか…ずっと取れなかったこの胸に燻っているモヤモヤしたもの。 「鮎沢…」 「な、なんだ…?」 「今…その話ししないで…」 この胸にあったものの正体…嫉妬。 今回ばかりは邪魔でしかない俺はあいつらに嫉妬していたんだ。 蚊帳の外で何も出来ない俺は鮎沢を助けられて力になれたあいつらが羨ましくて、嫉妬した…。 「…碓氷?」 「ゴメン、今…俺以外の男の話し聞きたくない…」 なんてわがままなんだろう…。 きっと鮎沢は困っているだろうけど、でも…たまらなくイヤだ。 「悪い…」 なんでだ、と理由を聞かれるのかと思ったのに違った。 「そうだよな…、考えてなかった。お前、ずっと待っててくれたんだよな」 「考えてみればすぐにわかったはずなのに、ホント私はお前に甘えっぱなしだな」 「悪い、出直す。こんな状態でいたらまたお前に嫌な思いさせるから、今日はもう帰るな?」 そう言って床においたカバンに手を伸ばした鮎沢を気づけば俺は抱きしめていた。 「う、碓氷!?」 「帰らないで」 「でも…」 「鮎沢…帰らないで?」 こくんと頷かれた返事にほっとして彼女をゆっくりと離す。 「ゴメンね…俺、変な八つ当たりしちゃった」 「いや…私が考えなしだっただけだ。ダメだな、私は。すぐにお前に甘えてしまう」 「…いいよ。甘えてくれて」 あの不快な蟠りは胸の中で少しずつ取れていった。 「ねぇ、美咲ちゃん」 「なんだ…っ!?」 鮎沢の唇に強く自分の唇を重ねる。 吸い付いたり甘噛みしながら、頭や首を撫で擦るうちにゆるりと彼女の力が抜けて唇が開いた。 くちゅくちゅと絡まり合う舌の温度と荒くなり始めた吐息が心地よい。 こんなキスも久しぶりでこれだけでも十分なほど本気になれる… だが、その前に… 「鮎沢、今日何時まで?」 「…教えない」 珍しく時間を教えてくれない。 だったら― 「へぇ…じゃあベッド行こうね」 ―思う存分抱き合える場所で… <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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