SECRET
愛する心は底無しです!
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某日、業務後


碓氷拓海は「ちょっと用事があるから」と言った美咲を待つ間、ふと思い立って理由もなく社内の屋上へと続く階段を昇っていた。

その左手薬指には数ヶ月前に妻の美咲に嵌めてもらった指輪がおさまっている。
彼女との結婚生活は彼の想像以上に充実したもののようだ。


しかし、現在彼には少々深刻な悩みがある。それは、




結婚したのにも関わらず一向に交際を申し込まれる数が減らないことだ。


…夫婦ともに!!







部署こそ異なれ同じ会社の社員同士の結婚、
…いくら大きな会社とはいえ互いの部署の人間しかそのことを知らないというのも妙な話である。



聞くところによると、ひと月で何人の人間が2人に告白するかと賭けをする輩がいるらしく、彼らが情報を途中で遮断しているらしいが…。



それよりも大きいのは仕事の便宜上、美咲が未だに旧姓を名乗っているということらしい…。

碓氷がいろいろ面倒ではないかと配慮して今年度中は旧姓の『鮎沢』で通すことを提案したのが仇となったようだ…。



それを理由に「結婚している」と言っても信じなかったり「愛人で構わないから!」としつこく迫ってくる者もいる…。


今日も今日とて、朝っぱらからそんな告白を受けたばかりだったのだ…。





「…なんで美咲以外興味ないって言っても告白してくるんだろ?」

ぽつりと呟いたところで屋上の扉の前についた。




一方美咲はというと、

数分前から…目下その手の告白を受けている最中であった。




「鮎沢さん、お願いします僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」

深々と頭を下げてくる男性には悪いが、付き合う気はない。

「…、あの申し訳ないんですが私結婚してるんです」
「え!?…だって名字…」

やっぱりそうだよな、と思い説明する。

「仕事の便宜上今年度中までは旧姓を名乗ってるだけで、公式な辞令はもう変わってるんです…。初めてお会いする方にはもうちゃんと新しい名字を名乗ってますし。…すいません紛らわしいことして」

とりあえず謝罪する私の左手薬指には夫から嵌めてもらったお揃いの指輪がある。
それを見た男が妙なことを言い出した。


「…あの、結婚してるとかじゃなくて僕をみてください」

「は!?」
どういう意味だ?わけがわからん…。

「浮気相手でもこの際なんでもいい!僕にはあなたが必要なんです!」

「…何言って…」
こいつ、正気か?
私は話した覚えすらないんだぞ…。


「あなたのご主人より僕の方があなたを愛せます!チャンスをください!」

なんだか頭にくる…。
この男が拓海の何を知ってここまで断言できるのか?
私の何を知って愛せるなどと軽々しく言えるのか…。


「すいませんが、私はあなたの告白は受けられません、失礼します!」


「待てよ!」
その言葉と同時に腕をものすごい力で掴まれた。


「離してください!」
振りほどこうとしてもびくともしない…。


「なんで俺じゃダメなんだよ!」


「私はもう相手を選びました!それが答えです!不倫を強要するような男性とお付き合いする気も更々ありません!」

美咲の言葉に腹がたったのか腕を掴んでいる手とは反対の手を振り上げた。

「…このッ!」

「!」
殴られる、と思った瞬間に誰かが私の腕を後ろに引いた。

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