1/1ページ目 「ただいま、拓海」 家に戻り玄関で扉を開けてくれる彼に微笑みかける。 「おかえり、美咲、薫」 「薫はぐっすりだね〜」 私の腕の中ですやすやと眠る薫を嬉しげに見つめている。 「赤ちゃんは寝るのが仕事だからな」 薫をリビングにおいたベビーベッドに寝かせてやる。すると、待ってましたとばかりに後ろから抱きしめられた。 「美咲ちゃん、お疲れさま」 …薫を生んで初めて会った時以外、ちゃんと彼のもとに帰るまで触れてはきても抱きしめられることはなかった。 彼の体温を背中全体で感じるのは久しぶりで思わず心臓が跳ねる。 だからこそ、実感もする。また拓海と一緒に暮らせることを…。 「…おぅ、これからは3人だな」 「うん、俺こんなに早く赤ちゃん抱っこできると思わなかったなぁ」 「それは私もだ…嬉しい反面不安かな」 感慨深げに呟かれた彼の言葉には同意しつつも、やはり怖い…。 首を包むようしている彼の腕にそっと触れて軽く顔を埋める。 自分の発言1つ1つが娘にどれだけ影響を与えるかなど全く予想もつかない…。本当に手探りの状態だ。 だが、次の瞬間にはそんな不安も吹き飛んでいた。 「そうだね。お腹の中の赤ちゃん育てるのは美咲にしかできなかったけど、生まれた赤ちゃんは俺も一緒に育ててくからね」 耳元で囁かれた低く柔らかい彼の言葉は、やさしいのにとても強く私の中を満たしてくれた。 ホントに毎回こいつは見事なまでに不安をかき消してくれる。 だから、私は安心して薫を生めたのだろう。 …過保護な部分は考えものだったが。 「あぁ、…なぁ拓海」 「薫って名前?」 「あぁ、悔しいが答えわからなかった。教えてくれ」 数日あれこれと当てはめて考えてみたもののお手上げだ。 私の名前が関係してると言われても、余計わからなくなるだけ…。 「いいよ、約束だもんね。ヒントは美咲だって言ったでしょ?」 私を離しながらソファーへと彼が足を進めた。それに習い私も同じく足を進め、腰を下ろす。 「あぁ、なんの関係があるんだ?」 「美しく咲くで美咲、でしょ?」 「あぁ」 確かに漢字はそう書く。 だが、名前と自分自身を比較するとどうも合わなく思うことが多い…。 だから彼の言うヒントは私には全くヒントなどではなかった。 「美しく咲く魅力的な母親からは同じくらい匂い立つような娘が生まれると思ったんだ。実際美咲に似てるしね、だから薫。この名前、過ぎ去らない功績って意味があるから美人さんで会長やってた美咲にかけたんだよ。今でも星華鬼会長の異名は不動で伝説化されてるらしいしね☆」 「…」 言葉が出ない…何言ってんだ、こいつは!? 「嬉しくない?」 「お前なぁ、そういうことを…第一伝説ってなんだよ!!」 「ん?この前幸村に聞いたんだよ。今妹が星華に通ってるんだって、過ごしやすくなってるらしいよ?」 「…何で私にかけたんだ?」 「前にも言ったよね、薫は美咲に似て欲しいから」 「そういえば…、何でだ?」 「まっすぐに育って欲しいから。美咲は危なっかしいくらいにまっすぐでしょ?」 「誉めてないしな…、それに曲がったことは性に合わん」 「それだよ。…まぁ、他にもいろいろあるけど、言わないでおくね?」 「なんだよ、引っ張るだけ引っ張っといて!気持ち悪いな、言えよ!」 「じゃあ言ってあげる…」 …本当にいつまで経ってもこいつの脳内は理解しがたいものがある。 「…お前は自信過剰に親バカも完全に取り込んだのか変態アホ宇宙人」 「ついでに愛妻家もね?」 にっこりと肯定されたあげく追加まできた…。 もう呆れを通り越して感心さえしてくる。 「はぁ…薫見てこよ」 時計をみるとちょうどお昼。 拓海と私も食事をするころだし、せっかくだから一緒にいたい…。 「俺も」 ベビーベッドを覗き込んでみると先ほどまですやすやと眠っていた薫がちょうど目を覚ましたようだ。 彼女を抱き上げると小さな手できゅっと服を掴んでくる。 拓海も姿勢を低くし、彼女をあやす。まだ表情があまりでないけれど、嬉しそうにしているのは伝わってくる。 そんなこの子がたまらなく愛しい…。 私が生みたいと心から思い、拓海が私に生んで欲しいと頼んだ娘。 無事に私たちの間に生まれてきてくれたあなたに願うことはたくさんあるけれど、一番の願いは 幸せになって欲しい。 薫、どうか私と拓海の大切なあなたがたくさん幸せになりますように…。 拓海は父親として、私は母親としてずっとあなたを見守って行くからね。 END <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
[編集] |