FUTURE
君の名前を教えて?前編
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娘が生まれて早数日、今日は日曜日で来客がある日だ。

コンコン、とノックされた。

「どうぞ」

「美咲〜、久しぶり」
「美咲さん、こんにちは」
そう、さくらと静子がお見舞いに来てくれたのだ。

「無事出産おめでとう!」
「おめでとうございます」
先日妊娠を知らせた時に会って以来でもう数ヶ月経つ。

「あぁ、2人共ありがとう」

「あとね、みんな連れてきちゃった」

さくらがドアの外に一度出て手招きしている。


現れたのは、

「会長、おめでとうございます〜」

「おめでとうございます、先輩」


成人して数年経つというのに幸村は相変わらずの子犬っぷり。
叶は叶で相変わらずだが少しずつ女嫌いを克服しているらしい、あのフードは見当たらない。


「幸村、叶…ありがとな」

「深谷くんはあとから来るって〜」
さくらが部屋のドアを閉めながらこちらに向かって来る。

「…そうか、もしかしたら拓海と同じくらいかもな」

「美咲、すっかり母親の顔だね」
私の顔を見て微笑みながらさくらが呟く。

「そうか?」
当たり前だが、自覚はない…。

「うん、きれいだよ」

「…ありがとな」
照れくさいが、嬉しくもある。

「赤ちゃんは今どちらに?」

「もうすぐ面会できる時間だから、…歩いたらちょうどだな。連れてくるから手洗いと消毒しててくれるか?」

「うん、やった〜!赤ちゃん見れる!!」

「さくらさん、騒がないでください。病院ですよ、ここ」

昔と変わらないその姿に安心しながら、部屋の端にある水道と備え付けの消毒液をさして言う。

「手をここで洗ってその後消毒な」

「わかった〜」



新生児室の娘はちょうど起きたらしく、私を見つけてぱたぱたと手を広げている。

そんな彼女を抱きかかえて私は部屋に戻った。

「〜っ可愛い!!さすが美咲と碓氷くんの赤ちゃん!」

「ホント可愛いですね」

「碓氷さんより会長に似てますね」

「髪の色は碓氷先輩寄りですけど」


「この子すっごく美人になるよ!!今こんなに可愛いんだもん!」

「えぇ、きっと美人さんですね」

「碓氷先輩みたいにモテ過ぎて、男の人に関心もたなくなったりしないといいですね…。」

「おい、叶…。不吉なこと言うなよ…」
変な男にひっかかるよりはマシかもしれないが…。


「それはそれですごいけどね〜」


「あの碓氷さんと結婚した美咲さんもすごいですけどね」
娘の話題から自分に切り替わって少々驚いた。


「ゴールデンコンビですしね」

「美咲ったらあの難易度超高い碓氷くんをおとしちゃうんだもんね〜、しかも美咲からじゃなくて碓氷くんから告白ってところがスゴすぎ!!」

付き合ってたのは当初秘密にしていたが、どこからか情報が漏れて結局公認になってしまった…。


だけど…、
「…なんで知ってるんだ?」
拓海から告白されたことは誰にも言ってないはずなのに…。

「みんな知ってますよ?」すかさず静子に突っ込まれた。

「…嘘だろ?」
信じられない…、ていうより信じたくない。


「年下の僕でも知ってましたよ?先輩が卒業するころには多分学校外でも公認ですよ」

「…」


「美咲ちゃ〜ん!」

絶句していると深谷の声がした。
振り向いてみると、相変わらずの深谷とどこか疲れた不機嫌気味の夫がこちらに歩いてきている。


「おぅ、深谷。やっぱり拓海と一緒になったか」

「うん、美咲ちゃん赤ちゃんおめでとう!」

「ありがとな」

「美咲、三下くんどうにかして…うるさい」

むすっとしたある意味珍しい表情をしている。


「なにやらかしたんだ?」
娘をぽんぽんと軽くあやしながら聞く。


「待ち伏せされて、病院つくなり襲いかかられたあげくまとわりつかれた…。」
病院だとそれは迷惑以外のなにものでもない…。

「…深谷、やめてやれ」

「わかった…」


「美咲、赤ちゃん抱っこしてみていい?」

「あぁ、いいよ。まだ首が据わってないけど」

さくらにゆっくりと娘を手渡す。


「うん…、すっごく柔らかい〜」

「それはそうでしょ、生まれたてなんですから」

「いいな〜、私も赤ちゃん欲しくなっちゃった」

「俺にも抱っこさせてくれ!」

「三下くんはダメ、落っことしそうでやだ」

間髪入れずに却下したその様子をみて思わず吹き出しそうになってしまった。


「んなことしないっ!」

「拓海、いじわるしてやるなよ…。」

あまりに露骨な態度を示す夫に笑いをこらえて諭す。

「拓海、頼む…!一回だけ!」

「…しょうがないな〜」


「ありがと、拓海!」

さくらから幸村、そして静子の手に抱かれていた娘をひょいっと抱きあげた彼は意外にも上手だった…。

「深谷くん上手〜」

「ホントです、僕はるりの経験があるからそんな怖くないんです〜」

確かに幸村も赤ちゃんを抱っこするが手慣れていて危なげなかった。

「叶は?」

「いえ、遠慮しときます…。怖いですから」


「大丈夫だよ」


さくらの言葉に一瞬考えて
「…じゃあ少しだけ」

深谷の手から叶の手に渡ったが怖いといいつつもしっかりと抱けていた。
「上手いじゃないですか」

「怖っ…碓氷先輩」
一瞬でもかなり気を使うらしく消耗している。

「はいはい、おいで〜」
するりと叶から娘を引き取って抱き上げた。
彼女も拓海が父親だとわかっているようで、手を伸ばして触ろうとしている。


「さすがパパだね〜、碓氷くん」

「ホント、安心してますね」

「そういえば、会長。名前なんていうんですか?」

「かおるだ。薫風の薫って字だよ」

「碓氷薫か…、きれいな名前だね」

「えぇ、どっちがつけたんですか?」

「拓海だよ」

「碓氷くん、なんで?」

さくらの質問に内緒、と言ってはぐらかす。

「それが私にもまだ教えてくれないんだよ。後少し経ったらだって言って…」


「家に帰ってからね」
指先で薫に軽く触れながらこっちを向いて言ってくる。

「ふぅん?」
不思議そうな声をしていたがそれ以上食い下がるつもりもないらしく、すぐに別の話題がのぼって気づけばそれなりに時間が過ぎていた…。


「さくらさん、そろそろ…あんまり長居はよくないですよ」
静子が時計を見ながらさくらに声をかける。


「そっか、じゃあ私達帰るね!」

「そうか?エントランスまで行くよ」
ベッドに座りながら横に寝かせていた薫を抱き上げてつれてゆく。

「うん」

あっと言う間に時間は経ってしまったがとても楽しかった。


「みんな、今日はありがとな」

「ううん、今度お家行っていい?」

「あぁ、またな!」

「うん、薫ちゃんバイバイ」

「じゃあ失礼しますね」

「お邪魔しました…」

「美咲ちゃんまたね〜」

「会長、気をつけてくださいね、碓氷さんもさよなら」

口々に告げて明るく去って行く友人たち。
見送ったところで拓海が口を開いた。

「…美咲ちゃん、部屋戻ろう?」
私の肩を抱いて促す。


「あぁ、…なぁ拓海?」

「ん?」

「どうしても教えてくれないか?」

「薫の名前?」

「…おぅ」
抱っこしている薫を見て告げる。

「待てない?」
見上げると少し意地悪な顔をして楽しんでいる…。
癪だか全く由来がわからない。

「…知りたい」
勝ち負けなんて関係ない、ただ知りたいだけ…。

「じゃあヒントあげる、美咲ちゃんの名前だよ」

にっこりと笑って言ってくるのだが…

「私?なおさらわからん…」


「答えは無事家に帰ってからね?」
ちゃんと俺のもとに帰ってきてから、と暗に言っているのだろう。


…私をからかうというのもなくはないと思うが。

「明後日まで悶々としてろってか?」

ちゃんと待っててくれるこいつにまた引かれて喜んでしまうから、言葉だけは反対のことを言う。

「俺だって薫が生まれるまで美咲ちゃん我慢してたもん」

きっとこいつにはバレている…。
でもそれでいい何にせよ、愛してやまないのはお互い同じ。今さらだ…。

「薫の前でよく言うよ…」
笑いながら、足を進めて彼を想う。



病室に戻り、また主役の薫を囲んで家族の穏やかな時が流れ始める…。


それが私たちの何よりの幸せ。



前編、END
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