FUTURE
宿泊行事は危険な香り
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とある土曜日…碓氷宅にて、美咲は考えを巡らせていた。


―私が“碓氷”となって、もうかなり経つ。
少しクセはあるにしても年相応ほどにちゃんと成長してくれた子どもたちもいる。
生活にも不自由はないし、これといって問題も見当たらない。
家庭円満っと言っても間違いないだろう。
だが…



こいつだけはまるで変わってない…!!




時計は午後3時半前を指している。
掃除などの用事はあらかた終わらせているから、休憩していても別に問題はない…。
だが、この状況はなんだ?


「…拓海、一体なんだお前は」


リビングには美咲と拓海の2人きり。
子どもたちは今は家におらず、ソファーに座ってくつろいでいた美咲をここぞとばかりに捕まえた拓海は彼女を膝の間に入れ、包み込むようにして後ろから抱きしめているのだ。


「いいじゃん、今は2人っきりなんだし」

「いいわけあるかアホっ」

現在子どもたちは学校の宿泊行事で外泊中。
運の悪いことに揃って同じ日に宿泊で、今日出発したばかり。
二泊三日の予定なので、明後日に帰ってくる。
つまり今日明日はこいつと2人きりなのだ。


新婚時は多少大目に見てやっていたこいつのべったり性だが、子どもが出来てからもそれは全く変わらない。(子どもたちの前では自重してくれているが…。)
それが今日明日常に続くとなるとさすがにちょっとめんどくさい…。
何よりいい年こいて恥ずかしい!!


美咲が頭をぐるぐるさせている間に碓氷がいたずら心に火をつけて彼女の弱い耳もとに吐息を吹き掛けた。

すると想像通りの反応で美咲は暴れだす。


「もう、美咲ちゃん暴れないでよ〜抱っこしづらいでしょ?」

言いつつもニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて面白がっているのは明白だ。

「せんでいいっ」

真っ赤になって拓海の腕から逃げ出そうとあがく美咲だが、彼の力に敵うわけもなく抱きすくめられたまま…。

「だーめ。こんなチャンス滅多にないんだから」

「なにがチャンスだ!!」

「わかってるクセに意地悪だね」

「なにが意地悪だこのアホっ!早く離れろ洗濯物取り込みに行くんだから!!」

上半身を反転させてべしべしと拓海の胸を叩いて逃げる口実を告げるが、彼には通用しなかった。

「残念、俺がもうやった」

「夕飯の買い物と風呂掃除はまだだ!!」

「終わってます」

「夕飯の支度…」

「あとはご飯炊けるのを待つだけです」

「…」

いくつか用意した口実も全て瞬殺されてしまい、黙る美咲を拓海はにっこりと笑みを浮かべて更につつく。

「もう降参かな?」

「あっ部屋の掃除」

「さっき美咲がやってたじゃん」

「子供部屋だ!!」

どうだっ!と自信ありげな美咲に残念でしたと言わんばかりに拓海が肩を竦める。

「出かけるちゃんと前日に掃除してたよ?」

「…そうかよ」

逃げ場なしと美咲は項垂れ、半ば開き直ってぼふんと拓海にもたれかかる。

「まさか子供たちの学校の宿泊行事が同じ日になるなんてね、びっくりしちゃった」

ケラケラと嬉しげに話すその口調は全く驚いていない。

「ほう?驚いてるようには見えんぞ。…だから!子供がいない間に嬉々として引っ付いてくるな変態宇宙人」

するっと服の裾から手を入れる拓海の手を美咲はひっぱたき、些かめくれた服を乱暴に引っ張り下ろす。

「子供たちがいるのはすごくうれしいんだけど、やっぱり美咲ちゃんとイチャつけないじゃない?」

そう言って再び下ろされた裾から手を突っ込んで腰の辺りをそろそろと撫で上げる。

「いい加減落ち着けー!!」

その叫びとともに、ごんっと激しく痛そうな拳骨の鈍い音が部屋に響いた。

「…ひどい」

さすさすと頭を撫でて碓氷は逃げ出し、立ち上がった美咲を子犬のような瞳で見た。
しかし美咲は、その手には乗らんと言うようにぷいっと顔を背けてしまう。

「ひどいもんか、アホっ」

「美咲ちゃん」

いつの間にか背後に回っていた拓海がぞくりとするような低音で美咲の耳もとで彼女の名を囁く。

「なんだよっ…ぅん!?」

負けじと顔を上げた美咲にもう運はなかった。

言葉を奪われて、足に力が入らなくなるほど骨抜きにされてしまった彼女から唇を離した拓海はすっと微笑んで彼女を抱き抱えた。


「お仕置き。夜まで待とうと思ったけど先に一回ね」


有無を言わさず寝室に連れ込まれた美咲が再びリビングに姿を現すのは夜になってから…。

「拓海のアホ。変態宇宙人」

むっとした美咲はテーブルに腰掛けながら肘をついて悪態をついている。

「ハイハイ、ごめんね。美咲ちゃん可愛いかったからイジめたくなっちゃったの」

「何が可愛いんだよ…バカ」

「お詫びに美咲ちゃんの好きなもの作ったから」

「…それだけじゃヤだ」

―本当はそれほど怒ってないけど…。

「デザートもあるよ」

「…」

「こらこら、ムスくれないの」

「…アイスもあるか?」

「あるよ。アイス添えにしてあげる」

「…じゃあ許す」

ぷっと小さく吹き出した拓海だが、微笑んで美咲の髪を撫でた。

「ありがと」


*******

2人が食事を終えて、拓海が美咲に先ほど言っていたアイス添えのデザートを出す。
だが、それは美咲の分だけ…。
食べてと促され一口含んだ後、「お前のは?」と聞くと「俺はこのあと美咲ちゃんもらうから」とさらりといってお茶を啜っていた。

もちろん美咲は却下したが、敵うはずもない…。
拓海との行為を恥ずかしがる美咲だが、結局受け入れて愛し合ってしまうのはもういつものこと…。


子どもがいない2日間、いつも以上に迫ってくる拓海と恥ずかしがりつつもなんだかんだ言って実は嬉しく思って受け入れている美咲は更にバカ夫婦ぶりに磨きをかけたそうです。


END
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