FUTURE
やさしい時間
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私が『碓氷美咲』になってからしばらく経ち、拓海との間に女の子が生まれた。


まだ生まれて間もないのに親がわかるらしく、私か拓海が側にいるだけで本当に安心しきった笑顔を見せてくれる。

やんわりとした光が射しこむ病室で私は上半身を起こし、ベッドに座っていた。
すぐ側にはすやすやと眠っている娘と彼女を抱っこしている拓海。

この光景を見ているだけで自然と口元が綻ぶ。


「どうしたの?美咲」
微笑んで私を見る拓海。

「ん?意外と様になるもんだなって思ってな」

「素敵な旦那様が可愛いお嬢様抱っこしてる姿が?」
からかうように笑って見せる拓海は幸せそうだ。

「自分で言うしな…」

「やっぱりやわらかいんだね」
ほっぺたを人差し指でちょんちょんとつついている。

「そりゃな…どっちに似るかな?」

「ん〜?やっぱり美咲ちゃんに似てくるんじゃないかな」

「何でだ?」
不思議に思って拓海の瞳を覗きこむ。

「だって女の子だし、愛する奥さんそっくりの娘になって欲しいからねv」

「お前、よくそういう恥ずかしいこと言えるよな…」
私は不意討ちに顔を赤くしてそっぽを向いて言う。

「この子だって大きくなったら結婚するんだぞ?」
不意討ちのお返しをしてみるとなかなかの効果があったようだ。

「やだなぁ…今からそんなこと言わないでよ。可愛い娘なんだから〜、俺以上じゃなきゃ認めないからね」

この言い草に私は思わず苦笑する。

「お前、すでに完全な親バカじゃないか…。第一拓海以上ってむちゃくちゃだろ?」

「え?」
びっくりした顔で私をまじまじと見ている。


「ふっ、あはは」
突然笑いだした拓海に私は口を尖らせた。

「なんだよ、何笑ってんだ!?」

「だって、可愛い奥さんにあまりに突然愛の告白されちゃうんだもん。嬉しくってつい…」
拓海が本当に嬉しそうに笑っているのは私も気分がいいのだが、どうも納得がいかない…。


「愛の告白っていつ私がそんなこと言ったよ!?」

「ホント鈍いよね。自分が告白しちゃってることにも気づいてないなんて…、こういうとこだけはママに似ないでね〜v」
よしよしと娘のほっぺたを拓海が長い指で撫でる。

「失礼極まりないな、お前は!」

「だって今しがた『拓海以上の男はいない』って言ったくせに〜v」

「お前はどうしてそうやって曲解するんだ!」
彼は真っ赤になって抗議する私の頭をぽんぽんと撫でていなす。


「(曲解じゃないと思うけど…)ほ〜ら、ママが怒ってると泣いちゃうよ?」

はっとして娘を見てみるが全然ぐずる気配はなく、未だにすやすやと眠っている。

「全然大丈夫だな」
ほっとしてため息をつく。

「これだけ周りで騒いでも寝てられるんだから大物だね」
クスクスと笑う拓海にそうだな、と娘に目線をうつしながら返事をする。


「美咲、こっち向いて」
私が拓海の方を見た瞬間に唇に柔らかいものが触れた。

心地良い、が自分の娘の前でキスするのには少し…否、かなりの抵抗があるので離れた瞬間に一応釘はさしておく。

「拓海、家でこんなことあんまりするなよ。もう2人っきりじゃないしな」


だが、
「なんで?するよ」
さらりと今後、娘の目の前でもイチャつくことを肯定されてしまった…。

「頼むから自重してくれ…」
私はがっくりと項垂れ、内心頭を抱えた。
そんな私とは対照的に拓海はのんびりと娘を見ている。

「ほら、起きたよ。ママも抱っこしてあげて?」
そう言って拓海が寝ぼけ眼の娘を私の前に見せた。

「おいで」
彼の腕から私の腕におさまり笑顔を見せるこの子が堪らなく愛しい。

「やっぱり美咲に似てるね」

「そうか?でも髪の色は拓海寄りだと思うぞ?睫毛も長いし…。女の子は父親に似るっていうしな」

「まぁ、きっとどっちに似ても完璧だろうね、顔とか勉強とか」

「…。こういう自意識過剰なところはパパに似ちゃダメだぞ」
話しかけてみると娘はニコニコ笑っている。

「なんで〜?」
本当のことなのになぁ、と口を尖らせている拓海をみて私はつい笑みがこぼれる。

それをみた拓海もつられて笑顔になる。


…温かい、いつまでもこんな家族でいられるといいな。

そうなことを考えていると拓海に呼ばれた。
「なんだ?」

「もっと幸せになろうね」

「…あぁ」
泣きそうだ。
きっとこの腕におさまっている娘と目の前の拓海がいるだけでこの先私は幸せだ、そう思った。

拓海の言葉を聞くまでは…。

「俺はもう少し後だけどこの子に兄弟作ってあげたいな…。こんなに可愛いならもっと子供欲しいし。美咲は?」

そんなことまで考えてなかった。
欲張りだと思う。
でも…
「私だって拓海との子供はもっと欲しい…。だけどこの子がもう少し大きくなってからな?」

自分の頬が赤くなるのを感じながらそう告げると拓海は満面の笑みを浮かべて私の肩を抱いた。




…望まずにはいられない。
愛するあなたとの子供だから。

拓海の肩に頭を預け、娘を抱く手にほんの少しだけ力を入れて幸せを感じる。


降り注ぐ暖かい日射しとカーテンを揺らす風がこれからを教えてくれるようにやわらかく、部屋いっぱいに広がって私達を包んでいた。












そして2人の願いが成就するのはまた別のお話。

END
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