1/2ページ目 フォンビーレフェルト卿が興味深気に尋ねてくる。 この場には渋谷と僕の他に、フォンビーレフェルト卿、グレタ、ウェラー卿がいて僕達の話を聞いていた。 「外国に旅行に行くと言うのだな?」 「そうそう」 渋谷は頷く。 「今まで行った事もないようなところに行くのって何かわくわくすんよなー」 「それはぼくも分かるな」 納得するフォンビーレフェルト卿は自らも何度も頷く。 しかしはっと気付いたような顔をして、少し険しい顔をして渋谷に聞いてもくる。 「…しかし、そこは大丈夫なのか?2人だけで供もいないのだろう?治安やらそういう危険性の問題は…」 彼が心配するのはごもっともだ。だから僕は彼に言ってやる。 「だいじょーぶだよ。行くところは別に戦争真っ只中〜とかいう危険地域じゃないし、ていうか世界的にも結構治安はいい方の場所だよ」 「ふむ…」 考え込むフォンビーレフェルト卿。 「ヴォルフは心配し過ぎなんだよー。あっちの世界の事なんだしさー。こっちと同じに考えなくてもいいって。おれはあっちじゃあ王様でも何でもないただの一市民なんだし」 僕も渋谷の意見に同意する。 確かに、こっちとあっちを同じには考えなくてもいいと思う。 「あっちは、普通に旅行してるだけな分なら危険に合う確率なんてそうそうないと思うよ。まあ何があるかは分からなものだから用心しとくに越したことはないけど。でもこれは言えるよ、確実にこっちの世界よりは危険は少ないよ、僕達の行くところはね」 「そうだよヴォルフ。あっちの世界はな…」 渋谷がフォンビーレフェルト卿を説得する。 眞魔国のある方のこちらの世界。 まるで近世のヨーロッパのような雰囲気を感じるところもある…。 まあ、それよりは全然便利なところも多々あるけれど…。 しかしそんな風にすら感じるところもあるこの世界は、治安の面でも利便性でも色々と現代のように定まっていないところも多々ある。 そして人々の思考、考え方も…。作物の不作、飢饉、病気などに対する対策。 そういったものが不安定な故に起こる継続的な精神の不安定さ。 そしてそんな中に、基本王を主とし崇め心酔する政治体系が多い。 まるで救いを求めるように、考えも浅く従属するように光に引っ張られているような傾向を感じられるところも多い。 崩れる時は…、すぐに崩れかねない。 集団ヒステリーを引き起こすみたいに思考が伝染する。 まるで…中世・近世の魔女狩りを思い起こしてしまう。 起こした側はどうであれ、あれがあそこまで拡大していった理由のひとつには、命に関わる問題の常に不安定な精神状態による極度のストレス故の集団ヒステリーが原因のひとつなところもあるだろう…。 何も、私腹を肥やそうと無実の魔女狩りを遂行した聖職者や権力者だけの問題ではない。 暗く伝染する思考。暗黒時代はまだ終わってはいない。 この世界は…そういった危うさを感じてしまう時もある。 それは、とても危険なことだ…。 まあこの国は、そして渋谷の求める平和に同意してくれている国々は、渋谷のおかげで少しずついい意味で変わってきつつはあるけどね。 ゆっくりと少しずつだけれど、確実に…。 しかし地球の今回僕達が行く所と比べたら圧倒的に危険な事は変わらない。 こちには、地球では考えられないような危険な生き物も結構近くに生息していたりして、普通に生活していて鉢合うなんて事もあり得たりもする。 魔術や法術なんてものも一般的に知れ渡り使われていたりもする。 …この世界の方が余程危険だろう。 まあ、あっちには守ってくれる護衛〜なんてものはいないけど、僕達そんな大層な身分でもない庶民だし。 「だからさー」 「…む〜…」 渋谷は色々言っている。僕も、まだ考え込んでいるようなところがあるフォンビーレフェルト卿に一言かける事にした。大丈夫。 「大丈夫だよ、危ない事なんてない」 それにいざとなったら僕が… 「いざとなったら…」 「おれが村田を守るし、それにどうしても危ない時はこいつ連れてダッシュで逃げるから平気」 「…!」 僕が何とかするからと言おうとしたのに、その前に渋谷が割り込んできた。 言われてしまった。 しかもにかっとしたとてもいい笑顔で…。 「肉体面体力面では任せろよ!もし万が一何かあったとしてもおれが守るから。その代わり、村田にはおれには無理なところは思いっきり頼るけど。言葉とか場所とかマナーがどうこうとか、そういうのはおれ全然分かんねーし、頭脳関係の事は任せるし」 「…渋谷」 「だから平気だって、おれ達2人でやっていける」 「…」 力強い渋谷の言葉…。きみは…。 「…うん」 「よしっ」 「言われてしまったね、ヴォルフ」 ウェラー卿が弟に微笑みかける。 「お父さまもムラタも大丈夫だって、ねえダディ?」 娘に諭されるような笑みを向けられてしまった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
[編集] |