●Eine Mitteilung für dich 1-41/2ﾍﾟｰｼﾞ目
「あ、ああ…」
こうしてくっついていることが何よりも自然に感じるきみ。
触れ合っている肩から伝わってくるきみの存在感…。
とくんとくんと速く幸せな音。安心出来る…。
きみの存在が僕に勇気をくれる、幸せをくれる。
こっそり周囲に目配せをするけれど、やはり今僕達の方に注目している人はいない。
そんなに電車内の人は多くはなく、ほとんどの人が座席に座っているし。
…実は内心ドキドキはしているけど。しかし僕は実行する事にした。
互いの体で隠れてしまっている手を、こっそりと後ろで絡ませる。
「む、村田…っさんっ？！」
小さく焦り声を出す渋谷。
目がきょどってるよ。
でも、やっぱりそうなるよなー。
僕も、自分でもこんなとこで何してるんだろとか思うし。
しかし騒いで不審人物に思われても困るので、僕は反対の手でしぃっと人差し指を立てる。
「大丈夫だよ、僕達の体で隠れてるし。それに今こっちに注目してる人とかはいないみたいだし」
「だっ！…だからって…」
渋谷の内心の焦りようがよく分かる。
顔に出過ぎてる。
しかし顔に出てるのは焦りだけではない。
そんな渋谷の気持ちを感じとってしまって、僕の方も更に気恥ずかしくなってしまう。
しかしそれと同時に幸せを感じもする。
…このドキドキも、きみが教えてくれたもの…。
「だいじょーぶ。まあ、バレないかちょっとドキドキはするけどね」
軽く舌を出してみせる。
「村田…」
ここに知っている人がいる訳でもないし。
電車に乗っている少しの時間だけれど、きみと手を繋いだままでいたい…。
「……」
変わっていく渋谷の視線を肌で感じてしまいぞくりとする。
黙り込んでしまった渋谷に、何かヤバいかもとか思いつつも、僕は手を離しはしなかった。
僕も旅先で高揚してしまっている気持ちもあるんだろうか。
楽しくて幸せな気持ちでいっぱいに。
…そうだったならいい…。
でも、それにしても渋谷～。
本当きみ、それバレバレだよー。……。
「ここは日本とは違うんだ。あ、ここの眞魔国の方と同じところを挙げるとね～」
雰囲気をがらりと軽い明るいものに変える。
「えっ！？」
「ドイツでも、同性同士で結婚することが出来るんだよ」
「ええっ！？マジかよ！ドイツってそうなんだ！」
「うんそうだよー」
「へ、へ～」
毒気を抜かれたような表情を見せる渋谷。
手を離しはしないけれど、やっぱりこのままの空気は僕的に堪えられそうになかったから方向性を変えて意識を逸らしてしまった。
だってこのままだと渋谷だけじゃなくて僕まで周りが見えなくなるような事態になりかねない可能性もないとは言えないし…。
渋谷に関してのことでは冷静でい続けられはしないから。
ここは電車内！自重しろ自分っ。
渋谷が、周りが見えなくなっちゃう時もある奴なんだから、僕がしっかりしてないとっ。
「アメリカの一部の州とかもそうだけど、他にも同性同士で結婚出来るところはあるんだよー」
「…おれ全然知らなかったぞ…」
「きみはそういうのに興味あるって訳でもないじゃないか。日本は違うしねー」
「まあ、日本じゃ普通じゃないけど」
「世界にはゲイが集まる町がいくつもあるんだよ」
「ま…っ！へっ、へー…」
段々声から力が抜けていく渋谷。声が引きつっている。
「そして特にゲイショップやゲイバー、ゲイが住むアパートが並ぶ通りを通称「ゲイストリート」って言ってこっちにもあるんだけど…」
「げげっ！」
ここまで言ったら露骨に眉を寄せてしまう渋谷。
「渋谷…」
「っ！！」
何を想像してしまったのか。
はっとするが、それでも渋谷はやっぱ未だゲイとかホモとかいう言葉だけじゃああんまりいいイメージを持ってはいないらしい。
そういうのを否定はしてはいないし本気で好き同士なら祝福もしてくれるだろう。
だけれど自分が巻き込まれるのはご免だという姿勢は変わっていない。
「ご、ごめん！でもおれ、ホモじゃねーし。あ、悪く思ってるとかいう訳じゃあなくって」
…まったく、きみが基本ノーマルで、今も性癖が男を好きな方に変わった訳じゃないってのは分かってるんだけどね。
「きみはやっぱ、恋愛対象って言ったら普通に女の人相手だもんねー。分かってるよ、こんな話題出してごめん」
「村田…」
僕も今渋谷と付き合ってるからって別に男が恋愛対象になった訳でもないしな。渋谷の肩をぽんと叩く、繋がれた手はそのままで…。
「う゛～、あ゛ー…」
渋谷が突然唸り出した。
「渋谷？」
覗き込むと、何かを決めたようにこほんっと大きく咳払いする渋谷。
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