1/2ページ目 現在地はフランクフルト国際空港出口。 「直通でよかったねー、乗り換えとか面倒もなくて」 他の国経由だといちいち席を立って飛行機を降りて乗り換えをしなければならない。 「表示とか英語だけなんだろ?読み切る自信ないし。ってそこは村田に任せるつもりだから、もしそうなったとしてもおれは村田についてくだけだけど」 渋谷は自分で読む気は0のようだ。 渋谷は渋谷、僕は僕の出来るべきところがあると、信頼して任せてくれる。 そういうところは嬉しいんだけどね。 しかしあまりの言い切りっぷりに軽く吹き出してしまう。 「帰国子女」 くすりと少しからかうように言ってやれば、 「だからさ、それ本当凄いガキの頃の話だってー。それにそんな長期いた訳じゃねーし」 呆れたようなうんざりしたような顔をする渋谷。 「まあ、行くところにもよるけど、英語が通じないところも多いから、英語よりもドイツ語が出来る方がいいんだけどね」 「げげっ!おれそっちのが更に訳分っかんねーよ」 眉間の皺を深くする渋谷のその部分をつんっとつついて、フォンヴォルテール卿みたいだよと苦笑する。 「大丈夫、僕が分かるから。通訳しますよ」 「あ、うん。そこのところは全面的に村田に任した!」 「うん」 渋谷の言葉に、僕は了解ーと微笑む。 「それにしても…何か外国ーって感じするよな!」 興味津津といった感じに、辺りをきょろきょろと見渡す渋谷。 「そこら中、文字あるところ見渡しても全部アルファベットだし!まああっちでも眞魔国の文字もまだ分からないところも多いけどさー、勉強中で」 「でも渋谷、もう指でなぞらなくても読めるようになってきたものとかも結構あるじゃないか」 「そっか?まだまだ幼児レベルだーってヴォルフは言うけど。て、でもあいつ自分が分厚い本読めるからって!あいつはもとから眞魔国側の奴でずっと勉強してきてるくせにさー。絶対に見返してやるんだって頑張ってるとこなんだけど…」 渋谷らしいなー。 「渋谷頑張ってるもんねー。その理由の一つがフォンビーレフェルト卿との張り合いってところも実にきみらしいよ」 「何だよそれー」 「まあ、きみは着実に理解度が増してきてるって僕は思うよ、頑張れ」 背中をぽんと軽く叩くと、 「おうっ」 と渋谷は笑顔で言ってくる。 そして辺りを見渡しながら、 「あ、そうそう、あっちではそうだけど、でも眞魔国とこっちはまた別でさ。こっちの外国語とかは全然分かんねーし、ていうか、そもそも自分の国でもないから余計訳分かんねーんだよなー」 そう頷いてくる。 覚える必要性を強く感じていないからこそ余計分からなくなるのだろう。 地球の日本が故郷なのだけど、眞魔国も自分の故郷の1つだといつも言っている渋谷。 だから眞魔国の事は分からない事でも頑張って理解しようとする。 しかしここは違う。 そう、ここは眞魔国でもない。 故郷でもない、日本から離れた遠い地だ…。 渋谷にとっても僕にとっても…。 「…そうだね。そういうのってあるかもね。自分の国だって思うから、眞魔国のは頑張ろうって気がわいてくるんだろう?」 「そうそうっ!」 まさしくそうとばかりに、分かってるよなーと僕の肩にぽんっと手を置く渋谷。 肩に渋谷の手の感触を感じ、僕は目を細める。 きみは頑張っている。 きみのもうひとつの故郷とも言えるべき場所の為に。 あそこはきみにとって、『憶えるべき場所』だ。 そんなきみが、とても好きだなーと思った…。 「渋谷…」 僕は渋谷の肩らへんに自分の頭をこつんと当てながら言う。 「ありがと渋谷」 そんなきみの考え方も嬉しく思う。 気持ちが言葉になり漏れ出ていた。 「う(゛)…?いや…」 「渋谷?」 僕が顔を上げた時、視線の先に時計が映った。 「あ、そうだ、時計とか合わせておかないと」 「ん?」 日本との時差は8時間。確認する。 今ここは、ドイツ時間の7月26日15時15分だ。 「日本とは時差があるから、時間を合わせるんだよ」 渋谷の愛用のGショックを指差して言う。僕も自分の時計の時間を合わせていく。 「あー、時間結構違うんだっけ。今何時?」 「15時15分」 「15時15分…っと」 渋谷が時間を合わせる間、僕は空を見上げた。 今は雲もなく晴れみたいだ。 緯度が高い上にサマータイムで1時間時計を進めているし、こちらはまだ全然日が沈みそうな気配はない。 そして体感の度合いも、じめじめと湿気が多い日本の夏とは違う。 ドイツ、この地特有の空気…。 今日は今の時間でも少し肌寒さすらも感じるぐらいだ。 ここの人達は平気だろうことでも、日本から来たばかりの僕達は違う。こうなると思って長袖を持ってきてよかった。 「オッケ」 「…うん、それでいいよ」 渋谷のGショックを覗き込み時間を確認する。 時間も合わせた事だし、一度宿泊先に行った方がいいだろうと思う。 まだぶらつく時間は充分あるぐらいの時間帯だけど、出歩くには余分な分の荷物を預けよう。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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