●Eine Mitteilung für dich 2-61/2ﾍﾟｰｼﾞ目
きみにそんな嬉しそうな顔をされたら、僕にはどうすることも出来ないじゃないか。
もう止められやしない。
見知らぬ人の為にだって、全力で助けようと動こうとする。
本当に想ってくれている。
そんなきみが、僕は大好きなんだから…。
「村田」
渋谷が手を差し出してくる。
「渋谷？」
「わっ！」
ぐいっと手をひっぱられた。
袖を引っ張られるでもなく腕を捕まられるでもなく、指を絡ませて所謂恋人繋ぎの手の繋ぎ方だ。
「渋谷…」
「ここなら…誰も見てないだろ？」
「…」
照れ臭そうに微笑む渋谷。
確かに、今ここには見える位置には誰もいなかった。
異国の地、田舎の夕暮れの中僕等はふたりだけだった。
「…」
夕日で分かりづらいけれど渋谷は、そして僕も、頬が上気してしまっていることだろう。
「…うん。まったく、きみって奴はさぁ」
本当、意識してると外すことも多いくせに、無意識だと無自覚プレイボーイというのか何なのか…。
「…好きだよ」
僕は指を絡ませ返し、そして小さく呟いた。
唇の端が上がり、笑みが零れ落ちる。
そして僕等は夕暮れの景色を楽しんだ…。
しばらくそうしていると、どこからか歌声らしきものが聴こえてきた。
「ん？」
これはもしかしたら…、先程車に乗っていた時も聴こえてきたメロディだ。
「これってさっきの…」
渋谷も気付いたみたいだ。
「うん、だと思うよ」
「こっちから聴こえるぞ」
渋谷が僕の手を引っ張っていく。
僕も引っ張られるままについてく。
そして辿り着いた場所。
そこは…墓地だった。ひとつの墓の前、歌を歌っている少女がいた。
小さい、10歳程？に見えるぐらいの少女。
「「…」」
驚いた…。何が驚いたかというと、まずはその娘の髪の色だ。
抜けるような色合いの、夕日に照らされてきらきらと輝く真っ直ぐな長いプラチナブロンド。
そして透き通るような白い肌。
服装は全体的に白で統一されていて、レースやらでフリルやらで飾られたふわりとしたスカートの可愛らしいデザインだ。
そして頭には、青い花が連なったようなデザインの髪飾りを髪の両側に止めてある。
彼女の服装や髪の色も相まって、それが何だか…まるで天使の輪のようにも感じてしまった…。
少女がこちらを向く。
瞳の色は薄い、透明感の強いグレーだった。
夕日の光を受けてきらきらと輝く姿は、一つの絵画から抜け出しでもしたかのように美しかった…。
完璧な美少女だ。そしてにこりと微笑んできたその娘の笑みは、見た目に反して随分大人びたもののように感じた。
第一印象から不思議な感じの印象を受けた…。
そして何か…、胸がざわめくような妙な違和感を感じた気がした…。
しかし渋谷の方は何もないようだ。
彼女の綺麗さや髪やら服装やらに驚いたような反応を見せたもののそれだけで。
「お、お譲ちゃん、こんなとこにひとり？」
と少女に声をかける渋谷。何か、下手なナンパみたいになってるけど…。
「お兄さん達、初めて見る顔ね」
鈴のように綺麗な声が響く。
にこりと無邪気な、しかし柔らかい落ち着いた雰囲気も感じさせる笑みを浮かべその娘は近づいてきた。
「私はね、お花をあげに来たの」
指さした先には今程まで少女が見ていたひとつの墓。墓石の上には彼女のしてる髪飾りの花と似たデザインの花が花輪にされ置かれている。…Vergissmeinnicht、勿忘草の花だ。
「はい」
少女が手を突き出してくる。その手の中には同じく勿忘草の花で作られた花輪があった。
「あ、ありが…と」
渋谷はそれを受け取る。
「えと…、お嬢ちゃん。もう夕方だし、子供がこんなとこに一人って…。お家の人とかは…？」
「お家はすぐ近くだから」
と微笑む少女。
どうやら、この村の子らしい。
まあマルティダさんに聞いたところによると、この村は隣の村からも結構離れているらしいし、他の場所からの訪問者も滅多にないそうだし、そう考えた方が妥当だろう。
「お墓参りにね、来たの」
見た感じの年頃にしてはきちんとした受け答えと、落ち着いていて利発そうな雰囲気も感じる少女。
「そっか…、お墓参り…」
確かに、ここは墓場だしと渋谷も納得した。
「ここね、土葬なのよ」
「え？」
思わず聞き返してしまう僕。
「焼いたりいないの。だから、死んだ人がそのまますぐ近くにいるの…。だからね、歌を歌ってあげるとよく聴こえると思うの」
そう言い少女は歌を歌い始めた。
「あ…」
「さっきと…」
渋谷も気付いたようだ。先程からも聴こえてきたメロディだ。
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