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振り返った瞬間大きな音が響く。
ずてーん!と効果音までつきそうな勢いで思い切りこけた女性。
『っつ〜』
「うわー、頭から…」
「痛そう…」
だが女性はばっと顔を上げると僕達を越えた先の方を指さして叫ぶ。
『泥棒よ泥棒!私の荷物…!』
「?」
指さす方を見れば、女もののバッグらしきものを片手に何やら急いで走り去っていっている男。
今日今のこの通りには人は少ないので余計よく分かる。
盗まれたんだ。しかしもう結構距離があり、僕ではなく渋谷でも追いつくのは難しそうだ。
僕がそう思ったその時、渋谷が大きく腕を振り上げた…。
腕を振りおろした先には男の姿。
『……!!?』
何かに激突して、そして男は倒れた。ころころと転がり落ちた物体は…。
「っしゃ!」
「え…」
僕は目がいいとは言えないけれど、1渋谷の手から、2白くて丸っぽい小さいもので合点がいった。
野球ボールだ…。
「行くぞ村田!」
と走り出す渋谷。
「ちょ、渋谷…っ」
僕も急いで後を追う。
そう言えば渋谷、旅行先にまで野球のボール持ってきてたんだ…。

「捕まえたぞっ!」
僕が辿りついたら男をふんじばっている渋谷。
右も左も分からない異国の地でこれだけのことをしてしまえるところとか、本当渋谷は凄いと思った。
あちらの世界でも、情報も、ちゃんと安全を確かめた上でなくても、何があるか分からないところへでも行動してしまえる。
その勇気は凄いと思う。
しかし渋谷は、それが唯の突っ走った無謀なだけの行動ではなく、ちゃんと渋谷なりに考えての行動だったりもするから更に…。
渋谷は凄い奴だ…。
一日一日とどんどんと凄くなっていっている。
そんなきみだから、僕は少しも目を離せないんだよなー。

集まってきたドイツ人の何人かも男を捕えるのを手伝ってくれた。
どうやらその人達は、渋谷の投球のコントロールのよさを口ぐちに賞賛している。
渋谷は何を言われているか分からないみたいだけど、何となく褒められているのかと思ったのだろう、照れたように笑っていた。
僕はその人達に礼を言い、足元に落ちていたボールを渋谷に手渡す。
「あ、さんきゅ」
渋谷はボールを懐にしまい込む。
「渋谷、何でボールをそんなとこに…」
「え、ほら…あれだよ!こんなこともあるかと思って…ってぇ〜…」
絶対今考えたな…。
「こんなこと、そうそうないと思うよ」
むしろびっくりなぐらいだ。
懐にボールをしまい込んでいるだなんてどれだけ野球好きなんだと。
本当改めて実感させられたような気がする…。
『あ゛〜っ!!私の荷物ー!!』
「「…!?」」
渋谷と僕は大声に驚く。見れば、叫んでいるのはさっきの転んだ女性。
そしてその指さす先には、通りに数々ある屋台のうちのひとつの鉄板の上に、…口が開いた感じバッグとその中身がばさばさっと、いや、じゅうじゅうと…。
渋谷が投げたボールが直撃した時に、衝撃で犯人が振り投げてしまったらしい。
それが焼けた鉄板の上に…。…嫌な予感。

『全部、駄目っ!これじゃあ使い物にならないじゃないっ』
彼女は持ち物を鉄板から自分の腕に取り戻したけれど、鞄は焦げているし中から飛び散った紙類やらメモ帳のようなものやらも、何が書いてあるのかよく分からない風な感じになってしまっている。
『ちょっと、あなたたち…!』
彼女は僕達2人の袖をむんずと掴み、思ったよりも強い力で僕達を引っ張ってくる。
「え、ええ…?」
「ちょっとお姉さん…っ!?」
『いいからついてくる!!』
凄い剣幕だ…。
言葉自体は分からなくても剣幕に押されたのか渋谷もこくこくと頷き、彼女に引っ張られるままついていくことになってしまう。
さっきの男のことは他の人たちがやってくれるだろうけど。何だか雲行きが怪しくなってきてしまったような気が…。
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