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地獄の果てまで 2
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「お邪魔しまぁす!」
「長旅ご苦労様にございました!」


どさり、と置かれた荷物はやけに重そうだ。大きな身体は馬から降りて、一つ会釈する。


「前田殿、此度はこの上田にお越し下さりありがとうございまする」
「いやぁ、俺の方こそまた呼んでくれてありがとう!この前ので、もうこれないと思ってた」
「蕎麦の件は忘れてはおらん…さぁ、早速美味しい蕎麦屋に案内致しましょう!」
「うっ…勘定は俺にさせてください…」
「ふふっ」


縮こませた丸い背に、小さく笑う。その声に気付いた風来坊に、これ見よがしに殴られた頬に手を当てると、八の字になる眉にまた笑った。よほど先日のことは、彼に効いたらしい。


「兄さんあん時は本当ごめんよ〜」
「さぁ、何のことだか。いてて、そういえば頬が最近痛いなぁ」
「うっ」
「こら佐助」
「旦那こそ」
「そうだな。意地が悪うございました。前田殿、好きな物を食べに参りましょう!」
「あっありがとう〜!」


泣きつき、甘味が食べたいという答えに合わせ、行きつけの団子屋へ向かう。言葉にしなくても、一目で旦那が上機嫌だと分かるところを見ると、前田の罪滅ぼしは成功のようだ。優しい男だなと思う。


「美味いね、ここの団子!」
「そうでござろう?やはりいつ食べても美味い!」
「ふふっ良かった」


膨らむ両頬を、もぐもぐと動かす顔は幼さを引き立てた。まるで弁丸様のようだと笑えば、怒られることは目に見えている。上がる口許を手で隠す。

特別何もない日に前田慶次は遊びと称して、上田の地に足を下ろした。風のような男の、その本意は分からない。

傘下で談笑していれば、自分達はすれ違う民衆と何ら変わらなかった。
戦を知らないような顔で、行き交う人間は笑い、商売をしている。子どもが走るたびに、草鞋が砂を蹴る音が立つ。茶を振る舞う看板娘の両の手は、年相応の張りがある綺麗なものだった。それらは俺たちが守っている全てだった。


「いやぁ、平和だねぇ」
「ええ、今のところは。冷戦状態は続いてはおりますが、ここは親方様が治められる地!他国と同盟を組んでいることもあり、一先ず平和と言えましょう…」


言葉とは裏腹に、表情は硬い。
分かっているのだ。この平和は仮初めということを。口にしないのは、せめてもの意地か。はたまた現実から逃げているのか。負けず嫌いの強がりだから、前者だろう。


「でも…こんなご時世だ。いつ死んだっておかしくない。だからさ、どんなやつでも最期に一人は寂しいだろ?好きな奴でもそうじゃなくても、誰かに看取ってもらえたらそれだけでも違うもんだ」
「…甘いことを申されるな…」
「もー幸村まで伊達みたいなこと言う」
「このような時だからこそ、甘さを望んでいては気が緩んでしまいまする」
「その内寝首かかれるよ?風来坊」
「分かってるけどさぁ」


口を尖らせ不貞腐れる前田を、旦那は何も言わずただ見ている。そうして、暫くすると、顔を上げ、ゆっくりと静かにこちらに目線を合わせてきた。
何も言わない。今だ文句を零す男は気づかない。主は従者を見たまま。
その目は、何か言いたげにゆらり動いて、そしてそっと離れた。

視線の理由は、わからないままだった。

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