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片影
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「お前、前世って信じる?」
久々の外食。喉を通る美味い酒に、上機嫌でグラスを傾けていると、目の前の友人は話始めた。何杯かの酒で、目元を少し赤く染めている。いつもよりも柔らかい声は、心地いい。


「不確かなこと故、考え兼ねます」
「…それもそうだな」
そう相槌を打つ割には、どこか納得のしていない様子だ。煮え切らない返答に、自分の答えを照らし合わせる。前世、そう聞かれるといやに相手を意識してしまう。果たして、自分と目の前の男との関係はどうだったのか。そう思うと、無性に知りたくなった。もしかしたら、敵同士だろうか。今のように、友達だとか。親友、という聞こえは何故かむず痒い。ライバルは…響きがいい。妙にしっくりくる違和感を残りの酒を一気に呷ることで無理やり拭い、話を戻した。


「そもそも、いきなりどうなされた」
「あ?…あぁ、いや、なんだ。つい思い出してな…あんま意味とかねぇから」
歯切れの悪い答えは、彼らしくない。そう思っていると、ってかよ、と言葉を区切り、ニヤリと口角を上げる。あ、彼らしい。いつもの調子で余裕風を吹かせるその笑い。


「お前、俺と昔も連んでたらいいなとか思っただろ?」
「は?」
「で、それはダチとしてか?身内か?」
「なっ!え?」
思っていたことを見事言い当てられ、驚く。嬉しそうに、それでいて当たり前のように声質を少し高く上げて、どうだどうだと答え合わせをする彼に、若干の悔しさを感じる。やや眉を寄せて見ていれば、お前は分かりやすいとまた笑われる。


「友人…ではないかと…」
「ひでぇやつだな。今俺らはダチなのに、それはありえねぇってか?」
言葉とは裏腹に、何をどうしてか、顔はどこか期待を含ませて嬉しそうだ。そのちぐはぐさに、首を傾げるしかない。


「…そう言われましても、しっくりこず…」
「じゃぁ…身内、とか?と、なれば弟か?確か2歳違いだったっけな。そもそも、アンタは兄って柄じゃねぇよな」
「なっ何故弟と決定なのか!それに、同い年であろう?」
「お、あぁ…今はそうだな。悪い、口が滑った」
泡が立ち込むビールを仰ぎ、ばつが悪そうな顔に変わる。今日の彼は、表情が豊富だ。言葉を借りるなら、クールというのは形を潜めているようだった。
果たして、彼がさす「今」とは、一体いつのことを言うのだろう。同級生に変わりはないのに、おかしなことを言うものだ。聞き出したいが、一文字に結ばれた唇が、それを許してはくれそうにない。仕方なく、自分も酒を喉に通す。アルコールは胃に、そして脳に染み渡る。思考は徐々に、ふわふわと浮遊する。


「…本当のところ、思い浮かんだのは敵軍でございます…」
浮き足立つ気持ちのまま、本音を話す。友人に対して酷い答えなため、自然と声が小さくなった。それなのに、耳を傾けるその友人は、驚きと喜びを混ぜたように、鋭い目を大きくさせていた。


「そうだよな…そうだよな!やっぱそうでなくちゃな!俺とあんたはライバルでなくっちゃなぁ!」
そう笑って手を前に伸ばし、肩を叩く。
あれ?ライバルと言っただろうか。当たり前のように口にする彼に、叩かれ揺れる体のまま、またもや首は斜めにするしかない。


「それにしても、懐かしいなぁ」
「…?何を申されますか…懐かしいなどと、最後にあったのも一週間ぶりでしょうに」
「あ?あぁ…なんか時差ぼけだ時差ぼけ」
頭を掻き、バツが悪そうな彼はつまらないギャグとも思えない呟きを零す。おかしい。今日の彼も、この空気も。最後にあった先週の友人と、今いる人物は同じだろうか。何かが引っかかっているかのように、頭の隅は重たい。そんな気だるい重力に気づかない彼は、御構い無しにまたも話題を持ち込んだ。


「じゃぁよ」

幽霊は信じるか?

そう尋ねる彼は、にたりと笑う。どうやら、先ほどの話はもう飽きたらしい。それにしても、何故そんなことを聞くのか分からないが、酔っ払いの戯言となればそこまでだ。しかし、問うその顔は、悪戯を企む子どものそれと同じだった。


「守護霊とか?」
「あ?んな大層なもんじゃねぇだろ。どっちかっつーと、悪霊だろ」
「…見えるので?」
まるで、知っているかのような口ぶりに、自分でも分かるほど訝しげな目線のまま聞き返す。それに気づいたのかどうか、彼は少し口ごもる。


「…いや…見えねぇけど…つか、どうなんだよ」
「見たことがないのでなんとも…」
「あ?ビビったりしねぇのか?」
目を少し大きくして。そうやってわざとらしく驚くふりをする相手に、少し苛立つ。まるで自分を小心者だと言われてるようだ。小馬鹿にする男を、とりあえず一睨みすることでとどめる。

「そう睨むなよ」
「いたとしても、怖くはない。たとえ、どんな姿形だろうが」
「ふ〜ん」
そうだ。怯えることはない。いずれ死ねば自ずと自分もそうなるだろうし、映画やドラマのようなものを想像したところで、所詮作り物のそれらに驚きはすれど、恐怖にまでは繋がらない。なんたって、実際に経験したことはないのだから。それなのに、正面の彼はというと、疑うような眼差しを向ける。じっと見るその視線は、酒の肴にと談笑していたさっきまでの雰囲気を殺し、深く冷え冷えとしたものだった。ごくり、場にそぐわない緊張を、飲み下す音は大きかった。彼は動かない。強いて言うなら、右の目だけが一瞬、照明のせいかきらりと光ったように見えた。その右目、何故か存在することに逆に不自然に感じる。
綺麗な黒目が映しているのは自分なのに、その水晶体の中の俺は、どこか違う気がしてならなかった。

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