1/1ページ目 嗚呼、血腥い。 噎せ返るそれは、嗚咽を手伝う。 喉はひきつり、胃を痛めた。 嗚呼、煙たい。 砂埃は風に乗り、宙で踊る。睫毛の隙間から入り込んだ粒は、目を痛めた。堪らなく擦ってみたが、何度しても、未だ見える左の景色は何一つ変わらない。 変わってはくれない。 …仕方がない、自業自得なんだから。馬鹿な自分に冷たく嗤う。 「っぐ…はっ…」 「…」 足元に横たわる男。 唯一無二の好敵手と呼んだ人間。いや、今から"だった"に変わるのか… 「…真田幸村。アンタの首は貰ってくぜ」 嗚呼、腕が重い。 筋力は思考に追いつけず、だらりとぶら下がったまま。ただの肉と骨の棒を、やっとの思いで持ち上げる。 「きっ貴殿に、…貰っていただくば、っ誇り、になり…まする…」 「…そうか」 「…えぇ…」 今は傷だらけ、泥だらけのその汚れた顔は、嫌いじゃなかった。 眉間に寄る皺は、年齢に相応しくはなかったが、時たま変わる表情は見ていて飽きなかった。面食らった時、何かを愛でる時、旨いものを食う時。自分には無いものを持った綺麗で無垢な真田を、好敵手という名じゃ収まらない、特別な思い入れをしていた。 それなのに… 手を見てみろ。 真っ赤に濡れた両の手に、目が眩みそうだ。 さぁ、この赤は誰のだった?この色は誰のものだった? 視線を足元に戻す。 時期にやめてしまうだろう呼吸。時期に止まってしまうだろう瞬き。時期に動かなくなるだろう、その、心臓。 「…さよ、なら…にござるっ政宗、殿…」 「そうだな」 哀しい、なんて言葉は使っちゃいけないと思った。自分がした結果だ。何、悔いることはないじゃないか。仕方の無かったことだ。俺は国の主だ。自国を守るために何かを犠牲にしたまでだ。それがただ真田幸村だっただけ。好敵手だっただけ。 「…政、宗殿…」 「何だ」 「あ…つかましぃ…やもっしれませぬ、が…」 「あぁ」 「…お願いが、ござぃま…す…」 ゆっくり、ゆっくりと。一生懸命に舌に乗せられた言葉。それに流れる、搾り取ったような声は、いつもとは程遠いまでに小さい。煩く思いながらも嫌いじゃなかった。 「あぁ」 「…どう、か…」 「…うん」 「どう、か…殺さない、でく…だされっ…」 「…」 「…あっあやつを……さ、すけを…」 掠れた声は、静かな今によく響く。 「殺さないで…」 大切な彼からの最初で最後の願いは、大嫌いなあいつを守るためのものだった。 いつもいつも隣にいて、いつもいつも邪魔をする、緑の道具。 なのに、何だ? 肝心な時には居やしない。隣にいるべきは今じゃないのか? 守るんじゃなかったのかよ! …なんて、 「俺が言えた義理じゃないか」 「…え?」 「いや…分かった。約束しよう」 「…あり、がとう…」 嗚呼、今さら気づくなんて… その笑顔が好きだった。 その声が好きだった。 その心が大好きだった。 俺は真田幸村のことが好きだった。 「あっちでも達者にな…」 嗚呼、心が乾いて仕様がない。 一体これから何で潤そうか。 きっと、頬に流れるこれでは足りやしない。 「Good-by…my rival」 さようなら友よ。 さようなら遅すぎた恋心。 叶わないと分かっていても、願いをきいて欲しかったのは、自分勝手な俺の方だった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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