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お隣さんは私の、
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実家から遠く離れた大学へ通う、ぎこちない生活に慣れ始め半年。一人暮しのために借りたアパートは、なかなか居心地の良いものになっていた。

そんな我が城へと、今日もまた帰る。ただいまと言ったところで、返事が来ることはない。靴を脱ぎ、こじんまりとした部屋へ向かう。景品で当てた赤い時計が示すのは、午後の2時。授業は午前だけ。あとは暇が待っている。そうだ、久しぶりに走り込みでもしてみようか。どうも最近、体が鈍って仕方がない。そう思い立ち、脱いだばかりの靴を履く。とんとんと爪先を整え、玄関の戸を開けた。


「オーライ、そこ角気をつけて」
「うっす」
部屋から出ると、何だか隣が騒がしい。見れば、引っ越しの業者らしき2人組が荷物を運んでいた。形からするに、冷蔵庫だろうか。白いそれは、重そうなのが窺える。
一階下を覗けば、駐車場にトラックも見えた。そういえば、つい最近空き部屋になったか…自分には関係ない。いや、隣なのだから、少なくとも何回かは顔を見合わす。同性だろうか、異性だろうか。若いだろうか、年輩だろうか。仲良くなれたらいいのだが…まだ知らぬ隣人を思い浮かべる。細やかに願い、視線を外へと向けた。が…


「「あ」」
その先の視線は、今から使う階段ではなく、ドアからひょこりと覗かせた男の顔。初めて見る、しかし、よく知る顔。


「…はっ初めまして…旦那」
「…初めまして…佐助」
前世、戦国の世で共に戦い、支えてくれた大切な部下。猿飛佐助がそこにいた。








♦︎


「しかし驚いたものだ」
「それはこっちの台詞。急に仕事先変わって、部屋どうしようって時に見つかって、まさかそれが旦那のお隣とはねぇ」
やや眉を下げ、小さく溜め息をつく彼は、あの頃と変わらない。変わったといえば、顔の化粧が無くなったことくらい。昔と同じ、綺麗な橙色の少し長い髪は、黒いヘアバンドに良く映えた。何も書かれていない無地のシャツも、佐助が着れば不思議と格好の良いものだった。


「不服か?」
「滅相もない!!むしろ俺様大感激〜」
彼が答えにくいことを分かっていて、わざと卑屈に聞いてみる俺は狡い奴だ。しかし、返ってきたのは嬉しいものだから、自然と頬が緩む。嘘ではない笑顔付きというのも、また喜びを倍にさせた。


「これからもよろしく頼む」
「こちらこそ。どこまでもお伴しますよ」
差し出された手に、自分のものも重ねる。今は傷一つないその手に、底知れない安堵を得た。もうこの男に、痛い思いをさせずに済む。綺麗な男らしい細い指に、薄い平と低い体温。これが、今の佐助の手。
ぎゅっと握り返した握手と共に、背中は任せてと添えられ、内心どうしたものかと考える。

お前はもう部下ではなく、俺のたった一人の親友だ。

背中合わせも良いけれど、次は肩を並べて歩んでいこう。
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